2021 Fiscal Year Research-status Report
触媒効果による層状化合物原子膜の低温単結晶成長実現
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21K04826
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
上野 啓司 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40223482)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 層状物質 / 遷移金属ダイカルコゲナイト / 原子層堆積法 / 触媒効果 / 低温成膜 / 選択成長 / 二硫化タングステン / 二硫化モリブデン |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) 微小金属膜(Al, Ti, Cr, Ni, Cu, Ag, Pt, Au)を堆積したSiO2/Si基板と、何も堆積させていない基板上で二硫化タングステン(WS2)薄膜の原子層堆積法成長を行い、それぞれの条件で得られた薄膜を光学顕微鏡、原子間力顕微鏡、X線光電子分光、ラマン分光により比較し、金属薄膜の種類が成長に与える影響を検証した。成長温度は300℃とした。金属薄膜を堆積しない場合、WS2の他に多くの不純物が確認された。反応性の低いAu・Ptや、反応性が非常に高いAl・Tiの薄膜を堆積した試料では、WS2に相当する成分がほぼ見られず、不純物が多く含まれた。一方、AuやPtより反応性が高く、AlやTiよりは低いAg・Cuでは,WS2に相当する成分が見られた。特にCuでは不純物がほぼ存在しないことが分かった。Ag・Cuの金属薄膜は、WS2薄膜の成長を促進し、より良質で不純物の少ないWS2薄膜の低温での成膜を可能にすることが示唆された。 (2) (1)と同様な実験をMoS2薄膜について行ったところ、Cuでは350℃以下、Agでは300℃以下、Ptでは250℃以下の成長温度条件下の試料において、各金属薄膜上にのみ選択的にMoS2成分が成長し、金属膜外には含硫黄成分が存在しないことが確認された。この結果から、金属薄膜上へのMoS2薄膜の領域選択成長が可能であることが実証された。その際、Cuは比較的高い成長温度まで、領域選択性を保つことが示された。 (3) 原子層堆積法により低温成長したWS2薄膜を硫黄雰囲気下でアニールした後、電極を蒸着して電界効果トランジスタを形成したところ、p型の動作特性を示すことが確認された。 (4) 剥離転写法で作製したしたMoS2電界効果トランジスタ素子を硫化アンモニウム溶液に浸したところ、浸漬時間により特性改善効果が異なることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナウイルスの流行により、2021年の初夏~秋にかけて研究を担う大学院生の活動が制約を受け、十分な実験を行うことができなかった。秋以降、流行がある程度収まった時期に実験を進め、いくつかの新しい研究成果を得ることができたものの、その後のオミクロン株の流行により再度研究活動が妨げられてしまった。 具体的には金属の種類による触媒効果の相違の発見や、金属薄膜を利用した領域選択成長の実現と言った、新しい研究成果が得られているものの、その掘り下げについては十分とは言えない状況である。特にCu, Ag薄膜上ではかなり低い成長温度でも不純物の少ない良質なMoS2薄膜が成長できる可能性が見い出されており、非常に重要な知見であるが、追試が不十分である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 金属薄膜触媒が遷移金属ダイカルコゲナイト(WS2)原子膜の低温成長に与える効果の検証については、特に高い効果が期待できるCuとAgについて、更なる成長条件の最適化を進める。また、まだ試していないPd, Feといった金属についても検証を行う。(2) 基板外に設置した金属板,メッシュ等による触媒効果についても検証を進める。(3) Cu薄膜上における低成長温度での良質なMoS2薄膜成長の可否について更に追試を行う。以上(1)~(3)の実験を通して、金属触媒による遷移金属ダイカルコゲナイト単結晶原子膜のより低温での成長実現を目指す。200℃以下で高品質な薄膜成長が実現した場合は、フレキシブルなプラスチックフィルムを基板とする薄膜成長も試みる。 (4) Cu薄膜を堆積した基板上では、幅広い成長温度でCu上のみに選択的にMoS2が成長する可能性があるが、この現象を利用し、微小なギャップを空けたCu電極間のみに、選択的にMoS2薄膜を形成してチャネルとし、電界効果トランジスタとして動作させることを試みる。 (5) 含硫黄溶液処理による薄膜欠陥の修復と電界効果トランジスタ素子特性の向上については、溶液処理が欠陥修復だけではなく、電極との接合界面の状態を変化させる可能性がある。それを防ぐためにレジスト剤による電極保護を試みたが、レジスト剤(あるいはその除去剤)が素子特性そのものに影響を与えることも確認されている。本実験課題については、原子層堆積法で低温成長した薄膜の欠陥修復について、X線光電子分光による評価を中心に今後実験を進める。 (6)低温成長した薄膜のカルコゲン雰囲気下でのアニール処理により、p型動作する電界効果トランジスタ素子が得られているが、このp型動作の起因について、理論計算からも解明を進める。またn型動作素子が実現可能かどうかも検証する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス流行により実験を円滑に進めることができなかった結果、当初予定よりも原子層堆積法に用いる高額な前駆体試薬の使用量が少なく、2021年度内には新規に購入することができなかった(容器が空になるまで購入できない)。他の実験に用いる消耗品も在庫品を使い切らなかったため、ほとんど購入していない。また学会参加等の学外出張も制限されていたため、旅費も全く使用していない。そのため、多くの次年度使用額が生じている。 2022年度は今のところ、実験を円滑に進めることが可能であり、前年度未購入の高額消耗品を購入することを予定している。また、学会出張も当初計画通り行うことを予定している。本来の2022年度助成金額と合わせて、適切に支出できると考えている。
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