2021 Fiscal Year Research-status Report
金属(Hf・Zr)/Si半導体表面界面局所構造中シリサイドの酸化反応理解と制御
Project/Area Number |
21K04882
|
Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
垣内 拓大 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 講師 (00508757)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 表面界面反応 / 高誘電率ゲート絶縁膜材料 / X線光電子分光法 / 分子ビーム / ヘテロ界面 / 酸化反応 / 二酸化ハフニウム / シンクロトロン放射光 |
Outline of Annual Research Achievements |
シリコン(Si)単結晶基板上に異なる厚さのハフニウム(Hf)原子層を作製し、放射光光電子分光法を用いてその表面界面成分を選別した酸化反応機構の解明を行った。本研究では、試料に照射する酸素分子の並進運動エネルギー(KE)を変化させることで、表面での初期吸着から深さ方向へ酸化が進行する挙動を詳細に検討した。 Hf原子層が2原子層相当の試料は、最表面に金属Hf層が形成し、界面に2種類の化学状態の異なるHfシリサイド(HfSi、HfSi4)を含んでいることが分かった。これを反応初期状態として酸素分子を照射すると、金属Hf層は反応障壁がほとんどなく、非常に高い酸化反応活性を示した。この時、酸素のO 1s内殻光電子スペクトルでは、酸素分子のKEに関係なく金属Hf層に対する吸着状態を確認できた。この酸素吸着状態を介して解離し、表面からSi基板に向けて酸化が層状に進行したことから、分子性吸着状態を経た酸化反応機構であることが分かった。しかし、Si基板近傍に分布するHfシリサイド成分の一部の酸化は、酸素分子のKE依存性が観測され、高いKEでのみ反応が進行した。これは、界面領域のシリサイドが酸素分子の直接解離吸着によって酸化することを示している。 さらに、反応が進行しSi基板の酸化が進行すると二酸化ハフニウム(HfO2)層の下に二酸化シリコン(SiO2)層が形成した。このときSiO2/Si界面で生じた結晶ゆがみを緩和するためにSi原子が放出された。これがHfO2最表面層にトラップされることで、HfO2がHfシリケート(Hf-O-Si)へと変化した。さらに、放出SiがHfO2層をすり抜け表面で酸素分子と反応することで最表面にはSiO2層の堆積も確認できた。 Hfの膜厚を変化させると、表面初期状態が変化することが分かってきているので、その酸化反応メカニズムの解釈も進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
清浄な金属ハフニウム(Hf)の原子膜が堆積したシリコン(Si)試料を出発物質として、酸素分子数を精密に制御しながら高輝度・高エネルギー分解能の放射光光電子分光法を実施することで、初期酸化過程から過剰酸化による組成変化に至るまでの新しい酸化反応メカニズムを観測することができた。初期吸着過程を解明することは研究当初の目的であるが、過剰酸化によるSi放出が原因となった表面成分の組成変化は研究計画レベルでは想定していなかった。これらは、本研究でのみ観測することができる成果である。 また、膜厚が変化するとその酸化生成物の組成が異なることが示唆された。これについては現在精密なフィッティング解析を行っているところで、狭い領域に分布する異なる化学成分の酸化反応制御技術に発展させることが期待できる。 一方で、本研究では、放射光施設Photon Factory(PF)にて、試料の価電子帯の光電子スペクトル測定を実施する予定でいた。これについては、大学のコロナウイルス感染対策に従ったためPFへの出張が実現しなかったため達成できていない。 また、現在、Si基板上にジルコニウム(Zr)の堆積膜を真空蒸着法によって作製する条件検討も遂行している。現状の実験装置を用いることで、Zrを融点付近まで加熱し、蒸気を発生させることができているものの、他の金属とは異なり、(1)局所的に加熱したZrが大きな固まりになりやすい、(2)冷却水を循環させているにもかかわらず直径Φ2 mmのZrロッドが加熱によって大きく曲がる、といった問題が発生している。現在、Zrの蒸着レートを遅くすることでこの問題を克服しているが、放射光施設の実験中に超高真空槽内で試料を調整するには時間がかかりすぎる。表面で起こる反応を追跡するには、製膜段階で酸化が進行する可能性があるため更なる膜作製条件を探索する必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年度、シリコン(Si)基板上にハフニウム(Hf)を2 原子層(ML)程度堆積させた試料の酸化反応ダイナミクスについて解明した。これに加え、特に最近Hfの堆積膜を0.5 ML相当へと変化させ、その表面界面酸化反応メカニズムの解明に取り組んでいる。Hfが0.5 ML相当にすると、最表面に金属Hf層がなく、Hfシリサイド(HfSiとHfSi4)層が分布した異なる初期表面状態を得ることができた。これに並進運動エネルギー(KE)の異なる酸素分子を照射することで、Hfシリサイド種を選別した酸化反応ダイナミクスを解明する。これまでに得られた結果と比較することで金属Hf層の効果も議論できる。このとき、表面の電子状態に注目するため価電子帯の光電子スペクトルを測定する。当初、価電子帯の光電子スペクトル測定は、放射光施設Photon Factoryで行う予定であったが、本年度もSPring-8のBL23SUにて実施する。さらに、Hfの膜厚が2 MLより大きくなると、6 ML相当まで増加したときには金属Hf層が表面を覆うことで、特に界面領域での酸化に違いが生じることが期待できる。特に本年度観測したSi基板酸化に由来する放出Siがトラップされることによる表面酸化物の組成変化の有無を確認する。表面の構造・形態を観測する必要も生じているので、新たな実験を計画したい。 一方、Zr堆積膜を作製するための作製条件を確立することで、放射光施設でのビームタイム中における安定した試料作製環境を整備する。Zrの製膜条件がうまくいかない場合は、Si基板上Hf堆積膜に一酸化窒素(NO)分子を照射したときの酸窒化反応を検討する。窒素分子が導入されることでHfO2よりも高い誘電率を示すハフニウム酸窒化膜を形成することができる可能性がある。さらには活性な金属Hf表面に窒素分子を照射することで、Hf窒化物の作製も検討する。
|
Causes of Carryover |
本研究では、超高真空中で作製したシリコン(Si)基板上ハフニウム(Hf)堆積膜の価電子帯領域の光電子スペクトルを放射光施設Photon Factory(PF、茨城県つくば市)で測定する予定であった。これを実行するための課題採択まであったが、愛媛大学のコロナウイルス感染防止対策に従うため公共交通機関を利用したPFへの出張ができなかった。また、同対策のため一時期の在宅勤務期間などもあり協力研究者との実験が十分にできなかった。さらに、オンライン講義やイベントに合わせたオンラインコンテンツを複数作成する必要があり、そちらに多くの時間を割かれることがしばしばあった。
|
Research Products
(3 results)