2023 Fiscal Year Research-status Report
金属―水素系の局所構造解析:結晶中に無秩序分布する局所格子膨張の直接観察
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21K04907
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
伊藤 恵司 岡山大学, 教育学域, 教授 (80324713)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 中性子回折 / X線回折 / 格子膨張 / 水素吸蔵 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までに得られた重水素濃度の異なる3種類の試料(D/V=0.65,0.70,0.75)についての中性子およびX線回折データを詳細に解析したところ,低重水素濃度の試料(D/V=0.65および0.70)には微量の水素化物相(β相)が混入していることが明らかになった。本研究の主たる目的は,重水素原子周囲の局所的格子膨張を定量観察することであり,その目的を達成するためには,固溶体相(α相)の広い組成領域で重水素濃度を変えた構造変化の観察が重要である。そのため,低重水素濃度領域の単一相試料の作製を試みた。重水素化前の活性化処理や重水素反応温度及び圧力等,試料作製条件に関して試行錯誤を繰り返したが,現時点では低重水素濃度領域(D/V=0.65~0.70)における単一相試料の作製は成功していない。一方,高重水素濃度試料(D/V=0.75)については,中性子およびX線回折により得られた構造因子に水素化物相(β相)に起因する結晶ピークは観察されておらず,回折データレベルで単一相試料であることが確認されたことから,この試料について研究を進めた。X線回折によって得られた2体分布関数の結果から,重水素化試料(D/V=0.75)のホストバナジウム格子構造は,BCC構造とは明らかに異なっており,2種類もしくはそれ以上のバナジウム金属間距離が存在していることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高重水素濃度試料(D/V=0.75)単一相であることが確認され,中性子回折およびX線回折データに基づく構造モデリングが進行中である。当初予定していた広い組成範囲における解析は困難となったが,重水素化前後のバナジウム格子構造変化の観察により,本研究の目的の達成は可能であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,中性子2体分布関数により得られたバナジウム―重水素距離の情報およびX線2体分布関数により得られたバナジウム金属原子間距離の情報に基づき,3次元構造モデリング法を利用し,重水素周囲の局所格子膨張の定量情報を得る。このため,バナジウム―重水素系試料に特化したリバースモンテカルロシミュレーションのソースコードの開発を試みる。
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Causes of Carryover |
測定資料の再検討およびこれに伴う中性子回折実験の再測定が必要になった。予算については,試料作製に必要な物品購入および実験旅費,最終的なモデル計算に必要な計算環境の整備に使用予定である。
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