2021 Fiscal Year Research-status Report
微生物トレーサ法を地下資源開発に適用する技術基盤の確立
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21K04961
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小林 肇 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (50549269)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | トレーサー / 油田 / 微生物解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
秋田県の油田の生産井および圧入井から試料(生産および圧入流体)を採取、各試料からDNAを抽出し、試料中の微生物叢を16S rRNA遺伝子を指標として解析した。全体的に、生産流体の微生物叢は古細菌が大部分を占め、その中でも絶対嫌気性のメタン生成古細菌が多く検出された。一方、圧入流体中の微生物叢は、主として細菌で占められていた。この全体的な微生物叢の組成は定量解析(qPCR)の結果と良好な一致を見せた。 コサイン類似度およびジャッカード距離により、各サンプルの微生物叢プロファイル間の類似性および不同性を比較した。全体として、コサイン類似度とジャッカード距離の結果は良好な一致を見せた。微生物叢プロファイル間のコサイン類似度の群平均法による凝集により、各試料をクラスタリングした。相違度の指標であるジャッカード距離が同クラスターに分類されるサンプル同士では低くなっていることから、クラスタリングの適正さが示唆された。各クラスターとサンプル種別(生産水または圧入水)や地層、井戸の位置などに大まかな相関があることが示され、微生物叢がその試料の由来する環境(地層等)のマーカーとして利用できることが示唆された。 興味深いことに、圧入水でPseudomonas属細菌種の卓越が見られたのと同時期に採取された生産水からもPseudomonas属細菌が検出された。定量解析(qPCR)の結果も同様であった。Pseudomonas属の細菌は中温性の好気性菌であり、地下の環境では増殖しない。したがって、この結果はこれら生産井への(Pseudomonas属の細菌を多く含む)圧入水の導通の可能性を示唆するものと考えられる。以上のことから、油田における微生物トレーサ法の有用性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実際の現場における微生物トレーサ法の有用性が実証されたため、計画通りに進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
油田の圧入水を対象に,圧入水中に含まれる実際の微生物叢(トレーサ)が「地下環境を流動すること」で受ける影響を解析し,その背景となる現象を理解する。試料(圧入水)を地下環境を模擬する実験に供し,各環境条件が微生物叢に与える影響を定量解析,比較評価する。 ・コアフラッド:圧入水をコアフラッド実験に供し,微生物叢が多孔質媒体中を流動することで受ける影響を解析する。塩水(および原油)で飽和した砂岩コアを媒体に用いる。 ・培養実験:試料を貯留層内の環境を模擬した条件(温度,圧力,塩分濃度,嫌気など)で培養し,微生物叢の変化を解析する。特に「圧入水に含まれる地上由来の微生物種が,貯留層内の環境でどのような速度で死滅し、検出されなくなるか」を明らかにする。 ・溶媒抽出:試料を原油-塩水の溶媒(液液)抽出に供し,微生物叢と原油との相互作用を解析する。原油相に移行した微生物種と,塩水相に留まった微生物種を比較解析する。
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