2023 Fiscal Year Annual Research Report
ハイパーラマン分光法によるタンパク質二次構造研究の新展開
Project/Area Number |
21K04975
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
奥野 将成 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (00719065)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 非線形分光法 / 水素結合 / 生体関連分子 / 振動分光法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、非線形振動分光法の一種であるハイパーラマン分光法を、生体関連分子に応用し、他の振動分光法では得られなかった構造情報を得ることを目的とした。最終年度では主に、細胞内においてタンパク質と相互作用することで機能を発現する、浸透圧調整物質に着目した研究を行った。トリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)や尿素は、細胞内の浸透圧を調整する分子として知られている。しかし、その分子レベルでのメカニズムには未解明な点が残されており、タンパク質と直接相互作用するのか、それとも周囲の水分子と相互作用した結果、タンパク質と相互作用するのか分かっていない。 研究では、細胞内濃度に近い濃度(< 1 M)のTMAOなどの水溶液をハイパーラマン分光法で測定した。その結果、TMAOでは分子濃度をあげていくと水に由来する高波数のOH伸縮振動の信号のピークは変わらなかったものの、ハイパーラマン分光法で顕著にみられる、低波数のlibration(束縛回転)モードの信号が有意に高波数シフトすることが分かった。一方、尿素やTMAOと構造の近いt-ブチルアルコール(TBA)ではOH伸縮振動もlibrationも変化が見られなかった。TMAOに特異的に、水の協調運動の一種であるlibrationモードが高波数シフトしたという興味深い結果が得られた。TMAOの二つの水素結合部位にを通して、複数の水分子が運動を抑制された状態で複合体を作っているという理論計算などから、非局在化したlibrationがこの複合体形成に影響され、水素結合が強くなる方向に対応する、高波数シフトを起こしたと解釈した。重要な点は、通常水素結合の強弱を議論するために用いられるOH伸縮振動では変化がなかったことであり、librationモードが協調運動に由来するため、このような顕著な結果が得られたと考えられる。
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