2021 Fiscal Year Research-status Report
Local structural analysis of large biomolecule realized by gas phase resonance Raman optical activity spectroscopy
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21K04986
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
浅見 祐也 学習院大学, 理学部, 助教 (00726078)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 気相 / 共鳴ラマン散乱 / タンパク質 / ラマン光学活性 / 円偏光二色性 / 液滴 / 赤外レーザー蒸発 / 量子化学計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
タンパク質やDNAのような巨大生体分子の構造解析では、従来よりX線やNMRを用いる手法が一般的であるが、近年では一分子レベルでその構造や物性を議論する試みとして、気相中での構造解析に注目が集まっている。これまでに我々は、液滴分子線赤外レーザー蒸発気相共鳴ラマン分光装置を開発し、タンパク質ミオグロビンの気相共鳴ラマンスペクトルの測定に成功した。本研究では、この気相共鳴ラマン分光装置にさらに改良を加え、気相共鳴ラマン信号の円偏光二色性(CD)を測定することで得られる気相共鳴ラマン光学活性(ROA)信号を観測することを目指す。通常、このROA信号は極めて弱く検出が困難な信号であるため、本研究では新たに光弾性変調器(PEM)を導入することで、レーザーショット毎に照射する円偏光の向きを変えて、5 HzでのCDの観測を可能にする工夫を試みた。本年度は導入したPEMを用いて、これまで1/4波長板で測定を行ってきた牛血清アルブミン(BSA)の気相CDスペクトルをPEMを用いることでより簡便且つ短時間で測定できることを確認した。このことは、1/4波長板に比べてPEMを用いた方法では得られるCDの感度が非常に高いことを意味している。次年度はこのPEMを用いた気相CD分光法を気相共鳴ROAの測定に応用して、ファーストシグナルの観測を目指す。この気相共鳴ROA分光法は、巨大生体分子の局所構造における絶対立体配座解析に利用できるため、これまでの気相共鳴ラマン分光法を超えて、より詳細な微細構造の情報を得られると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
50 uMのBSA水溶液をパルスノズルより10 Hzで液滴(約80 um)として射出し、差動排気された真空槽に導入した。導入された液滴を飛行時間型質量分析装置の加速電極部まで誘導し、赤外レーザー光(3591 cm-1, 約5.5 mJ/pulse)を照射してBSAイオンを気相単離した。単離されたBSA負イオンをパルス電圧で加速し、質量選択的にイオン信号を観測した。またパルス電圧の印加の直前に左/右円偏光の深紫外レーザー光(192-234 nm, 約0.4 mJ/pulse)を照射し、BSA負イオンから生成した光電子を質量選択的に観測した。このBSA負イオンからの光電子生成は1光子吸収過程であることが既に分かっているため、この光電子脱離収量(PDY)はBSA負イオンの吸収強度と見なせる。従ってこの研究では、左/右円偏光で生じるPDY強度の差をCD信号として測定を行った。しかし、1/4波長板を使った測定ではこの左/右円偏光の変換を手動で行う必要があるため、CD検出の感度が低い。そこで本研究では、PEM(米国ハインズインスツルメンツ社製II/FS50)を導入することで、レーザーショット毎に照射する円偏光の向きを変えて、5HzでのCDの観測を可能した。またこのCDの取得において、m/zがほぼ0の光電子の信号を用いるため、m/zが~66000程度あるBSA負イオンと同時に信号を検出するためにはオシロスコープが2台必要になる。そこで本研究では、新たに高分解能のオシロスコープ(ローデシュワルツ社製RTA4004)を導入して、PDY強度とBSA負イオン強度の同時測定を実現した。その結果、1/4波長板を用いたCD測定で得られる信号のS/Nが、PEMを用いることで約1/6程度の時間で達成できることが分かった。これは極めて高感度にCDを観測できていることを意味している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究によりPEMを用いて高感度な気相CD分光を行うための実験条件が決定できた。しかし、測定したCDスペクトルには1価~4価のBSA負イオンが混在しており、価数を分離した条件でのスペクトル測定には成功していない。またこの気相CD分光法と気相共鳴ラマン分光法を結合した気相ROA分光法を用いるためには、標的のタンパク質イオンをイオントラップした条件で観測を行う必要がある。本年度に行った別課題の実験で、イオントラップ電極を新たに作成してBSA負イオンのイオントラップを試みたが、顕著なイオン信号は観測できなかった。この理由は、気相単離後のBSA負イオンの冷却過程で多量の熱電子が放出されるため、気相単離後に急速にBSAの分子内電荷が失われることに由来していると結論した。従って、現在の実験装置ではタンパク質負イオンのイオントラップは容易ではないと考えられる。そこで次年度の研究では、標的タンパク質は当初の計画通りヘムタンパク質の正イオンとして、ミオグロビンもしくはシトクロムcを用いて行う予定である。既にこれらの電子スペクトルの測定には成功しているため、感度良く気相共鳴ラマン散乱光を観測できる励起波長が2価ミオグロビン正イオンでは395nm、1価シトクロムc正イオンでは401nmであることが分かっている。次年度の研究では、この励起波長を用いて気相共鳴ROAのファーストシグナルの観測を目指す。この時、使用する検出器がCCDの場合、感度の問題で観測できない可能性が予想されるため、ファーストシグナルの観測には光電子増倍管を検出器に用いて測定を行う予定である。
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Causes of Carryover |
本研究で購入予定であった光弾性変調器(PEM)は、別の実験課題で使用していたものを代用することができるようになった。そこで、PEMの購入費として計上していた物品費を次年度以降の研究費として使用することにした。
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