2021 Fiscal Year Research-status Report
多価分子イオンの探索・分光のための多電子-イオン同時計数法の開発
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21K05000
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
小田切 丈 上智大学, 理工学部, 教授 (80282820)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 多価分子イオン / 光多重電離 / 同時計数 / 放射光 |
Outline of Annual Research Achievements |
多価分子イオンは準安定状態であり多くの電荷移行状態と結合しているためそのエネルギーと性質を理論的に予測することは物理化学におけるフロンティアである.本研究では,分子のX線吸収による多段のオージェ遷移の終状態として多価分子イオンが生成することに着目し,オージェ終状態である多価分子イオンと,そこに至るまでに放出されたすべての電子を同時計数する「多電子-イオン同時計数法」を開発し,それを用いて多価分子イオンの探索,分光およびその生成ダイナミックスの解明を行うことを目的とする. 2021年度は装置開発を行った.多電子-イオン同時計数実験装置は,既存の多電子同時計数装置にイオン検出機構を付加することで実現する.既存の多電子同時計数装置は,永久磁石とソレノイドコイルによる磁気ミラー効果を利用し,高効率での多電子同時計数を実現するものである.当初,永久磁石にイオン検出用の穴を開け,電子とイオンを別々の検出器で検出する計画であったが,検出器の入手状況と磁石に穴を開けることによる電子検出への影響について再検討し,パルス電圧印加により電子とイオンとを同じ検出器で検出する方法に方針変更した.この変更に伴い,位置敏感検出器を用いたイオンの運動量測定が可能となる.荷電粒子軌道計算に基づく電極系設計,電極系の製作を経て装置全体を組み上げた後,それを用いてKEK-PFのBL2Bにおいてテスト実験を行った.イオンの飛行時間質量分析および電子のエネルギー分析が正常であることを確認し,かつ,電子-イオン同時計数測定を実現した.次年度以降,イオンの検出効率,パルス電圧印加に伴うノイズ対策,収束レンズ系の最適化を施し,2個以上の電子とイオンとの同時計数測定を行う計画である.また,既存の装置調整の目的で,Kr,メタノールを対象とした多電子同時計数実験も行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は多電子-イオン同時計数実験のための実験装置を開発し,準安定な多価分子イオンを見出し,その分光を行うことを目的とする.「研究実績の概要」に記載した通り,当初計画していた装置開発とは異なる方針をとることになったが,開発はおおむね計画通りのスケジュールで進んでいる.
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Strategy for Future Research Activity |
上述のテスト実験の結果,イオンの収束がよくない事,信号にパルス電圧印加に伴うノイズがのってしまいエネルギー分析,画像による運動量測定,同時計数計測に影響を与えてしまっている事,が課題としてあげられる.これらを順次解決し,装置開発を進め研究手法として確立することが今後の課題である.
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Causes of Carryover |
当該年度実支出額(A)と所要額(B)に差額が生じたが,細かな端数の範囲(4,021円)であり,ほぼ計画通り予算を執行した.次年度に繰り越される額としては少額で,計画の変更が生じるほどではない.真空装置等の消耗部品の予算として充当する.
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