2021 Fiscal Year Research-status Report
遺伝的アルゴリズムを用いたフォノン状態密度解析手法の確立と実在物質への適用
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21K05001
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Research Institution | Anan National College of Technology |
Principal Investigator |
上田 康平 阿南工業高等専門学校, 創造技術工学科, 准教授 (60612166)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 比熱 / フォノン |
Outline of Annual Research Achievements |
比熱は,フォノンを含むすべての自由度の寄与を反映するが,フォノンの周波数分布(g(ω),ωは振動数)を比熱から求めることは,一般に困難であり,実在物質のg(ω)を比熱から解析し,さらにその解析結果を熱異常に対する正常比熱の決定に用いることは,ほとんど成功していなかった。本研究の目的は,遺伝的アルゴリズムを利用したg(ω)の解析方法を開発し,さらにそれを比熱の解析方法に応用する方法を確立することにある。本研究の予備調査では,提案する手法で分子量200程度の分子からなる結晶についてg(ω)の解が得られることが分かっていた。予備実験で得られたg(ω)が,真のg(ω)なのか,それとも局所解なのかは確認されていなかった。他の実験手法から求まるg(ω)と矛盾ないg(ω)を比熱から得られることが分かれば,本手法から真のg(ω)が得られると結論付けられる。そこで,研究の初年度にあたる今年度は,(1) 真のg(ω)導出の検討のためのモデル物質の探索と,試料の準備,機器整備を行った,また,(2) 分子量の小さな物質を対象としたg(ω)解析を行うためのアルゴリズム開発と条件探索を行った。予備実験では,ある程度分子量が大きな物質に関してしかg(ω)の解が得られなかった。比熱には分子内外の全振動の自由度が含まれる。これら全てを解析に取り込むのは難しく,何らかの近似が必要である。多くの分子内自由度が存在しその合算として比熱が決まる大きな分子と,分子内振動自由度が少ない小さな分子では,高い振動数を持つ分子振動の扱いを異なるものにする必要があることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の第一の目的は,比熱から提案する手法で得たg(ω)が真のg(ω)であるかを見極めることであり,さらに,現手法を発展させ,比熱を含む複数の実験結果を無矛盾に満たすg(ω)を得る解析法を開発することにある。そのためには,複数の実験手法からg(ω)が報告されている物質の比熱を用いた解析を進めていく必要がある。ナフタレンは複数の実験からg(ω)が報告されており,よいモデル物質となりうる。また,比熱データも報告されている。しかし,必要な極低温領域の比熱は報告されていない。そこで,極低温比熱を緩和法熱量計で測定するため,緩和法での測定に適した形状の結晶試料を得る条件を見出し,また,測定機器の整備を行ったところにある。また,本研究の予備調の段階で,解析結果が安定して得られる物質が限られる問題があったが,その理由が,高振動数を持つ分子振動の近似的取り扱いに起因していたことが分かった。分子内自由度が多い大きな分子では,高振動数の分子振動を量子化学計算の結果で近似する手法が有効であったが,分子内振動自由度が少ない小さな分子では,量子化学計算の結果と実際の振動分布間の差の影響が無視できないことが分かった。換言すると,比熱データには,それ自身のエネルギースケールの数倍のエネルギースケールにある振動の情報が相当に含まれており,本手法によって相当に高いエネルギースケールにあるg(ω)をも解析可能であることを意味すると考えられる。これらの結果より、当初の計画は順調に進行しており、かつ、新たな知見も得ることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在研究は順調に進行しており,今後の研究は当初の予定通りに進めていく。次年度は,ナフタレンをモデル物質として,比熱から導出したg(ω)の正しさの検証と他の実験もg(ω)解析に取り込むようなアルゴリズム開発を行っていく。全ての物質で,ωの小さい領域にはデバイモデル型の連続したg(ω)分布がある。この分布を,解析的に取り扱うには工夫が必要なことが見出されたが,極低温までの比熱が得られれば,この分布に関するいくつかのパラメータを実験的に決定可能である。そのため,まずは,ナフタレンの低温比熱を決定することから始める。また,いくつかの物質に新奇な相転移に由来すると考えられるブロードな熱異常を観測している。これまで用いられてきた解析方法では,これらの熱異常の正常熱容量からの分離には,あいまいさが残る。本研究で開発しているg(ω)解析法を応用して,熱異常の分離を試みる予定である。
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Causes of Carryover |
おおむね予定通り使用したが,少額の未使用額が生じた。翌年度に繰り越して利用することで,有効な予算利用を行う。
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Research Products
(1 results)