2021 Fiscal Year Research-status Report
半導体ナノ構造体を用いた高機能フォトクロミック材料の創出
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21K05012
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
小林 洋一 立命館大学, 生命科学部, 准教授 (10722796)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | フォトクロミズム / ナノ結晶 / 電荷分離 / 温度依存性 / 電子移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
熱消色型(T型)フォトクロミズムは自動調光ガラス、医薬品やブランド品などの偽造防止ラベル、書き換え可能なホログラムなど、幅広い産業分野での応用が期待されている。その一方で、実用材料に求められる、①安価で大量供給が可能、②高い光感度、③速い消色速度、④消色過程が温度に依存しない特性すべてを満足するものはなく、特に④は克服できる材料すらなかった。本研究課題では、近年申請者が開発した「温度に依存せず、高速に応答するCuドープZnSナノ結晶のT型フォトクロミズム」を基盤として、上記の課題を克服できる新規フォトクロミックナノ結晶を創出する。 CuドープZnSナノ結晶のフォトクロミズムの課題は、着色が有機フォトクロミック分子と比べて弱いことである。これは、粒子間のホッピングの前に電荷再結合する成分があること、また着色の起源であるZnSの価電子帯からCu2+への遷移のモル吸収係数が有機分子のものと比べて小さいことが挙げられる。よって、電荷分離を効率的に起こし、生成する電荷分離種の可視領域の振動子強度をより高めるための材料設計を基に研究を行う。 2021年度(1年目)は、ナノ秒からマイクロ秒領域の時間分解吸収分光測定装置を新たに構築し、半導体ナノ結晶のフォトクロミック反応のメカニズムを解明した。得られた知見の概要を示す。 ① CuドープZnSナノ結晶粉末のフォトクロミック反応の消色速度が室温近傍の温度に依存しない理由が水分子のナノ結晶表面への吸脱着過程に由来することを明らかにした(J. Phys. Chem. Lett., 2021, 12, 8129.)。 ② CuドープZnSナノ結晶の水溶液中における励起状態は数マイクロ秒程度であり、伝導帯とCuの準位間の電荷分離状態に由来することが示唆された。 ③ CuドープZnOナノ結晶を合成し、その粉末試料においてもフォトクロミック反応を観測した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ナノ秒からミリ秒の時間分解分光測定装置を無事構築し、CuドープZnSナノ結晶の溶液状態における光物性を明らかにすることができた。従来では溶液状態ではフォトクロミック反応進行せず、その由来が不明確であったが、本研究を通じて創出した測定装置により、その由来が粒子内の比較的長い時間スケールの電荷再結合過程であることが明らかになった。 ZnOナノ結晶を用いたフォトクロミック材料の開発研究は次年度に予定していたものであるが、現時点で既に良好な結果が得られており、順調に研究が進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に構築した時間分解測定装置を積極的に活用し、高効率電荷分離を実現するフォトクロミックナノ材料の創出に取り組む。 具体的には、ZnSナノ結晶間の電子ホッピングはナノ秒オーダーで起こることが分かっており、電荷再結合過程と競合し、電荷分離が効率的に進行していないと考えられる。そこで、ZnSよりも価電子帯、伝導帯ともにエネルギー準位の低いZnOをZnSに直接接合した電荷分離型のヘテロナノ構造体を合成し、効率的な電荷分離を実現する。ZnOナノワイヤーなどの異方的なナノ構造体を積極的に活用して電子正孔間の距離を空間的に分離し、電荷再結合過程、つまりフォトクロミック反応の消色時間をナノ構造の形状、サイズによって制御できる新規フォトクロミックナノ材料を創出する。
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