2021 Fiscal Year Research-status Report
ホスホリル配位子と遷移金属による協同反応場の開発および環境調和型触媒反応への応用
Project/Area Number |
21K05056
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
浦 康之 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (40335196)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | パラジウム / ルテニウム / ホスホリル配位子 / 亜ホスフィン酸配位子 / 第二級ホスフィンオキシド / 酸素 / 酸化 / 水素化 |
Outline of Annual Research Achievements |
ビピリジン部位と第二級ホスフィンオキシド部位を含むNNP型三座配位子,および,2つのピリジン部位と第二級ホスフィンオキシド部位を含むNPN型三座配位子をそれぞれ合成し,NNPおよびNPN配位子を用いてホスホリル配位部位をもつ種々の新規パラジウム錯体を,また,NNP配位子を用いて亜ホスフィン酸配位部位をもつ新規ルテニウム錯体を,それぞれ合成し構造決定を行った。 水素結合で架橋されたNNP-ベンジルパラジウム二核錯体については,常圧の酸素,常温,周辺光照射の条件下においてベンジル配位子と酸素との反応(酸素化反応)が迅速に進行し(30分以内。青色LED照射下では1分以内),ベンズアルデヒドなどの含酸素有機化合物が生成することを見出した。種々の条件下での検討の結果,光励起された錯体が三重項酸素と速やかに反応することが示唆された。この成果は,今後,NNP-パラジウム錯体を触媒として用いての,酸素による炭化水素類のC-H結合の選択的な酸素化反応や,酸素を利用したアルケンへの酸素官能基の新導入反応などの開発に繋がると期待される。 また,NNP-ルテニウム錯体およびNPN-ルテニウム錯体触媒系を用いて,不飽和化合物の水素化が良好に進行することを見出した。NNP-ルテニウム錯体を用いたベンズアルデヒドの水素化では,常圧の水素下においてTON(触媒回転数)が約1,600となった。この反応ではホスホリル部位とルテニウムが協同的に働いて良好な触媒活性が得られている可能性が考えられる。今後,種々の反応条件検討によってさらに高触媒活性の実現を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新規三座配位子およびそれらの配位子を用いた新規遷移金属錯体合成については順調に進展しており,パラジウムおよびルテニウム錯体について現時点で合計10種類以上が得られている。 合成した錯体の反応性として,特に,NNP-ベンジルパラジウム二核錯体と酸素との反応においてベンジル配位子の酸素化が迅速に進行することを見出した。また,触媒反応としては特にNNP-ルテニウム錯体を用いてのアルデヒドの水素化が良好に進行している。これらの反応ではそれぞれ,ホスホリル部位と遷移金属が協同的に働いて進行している可能性が考えられ,今後,反応機構について明らかにしていく。 また,これまでの知見を基に,より高難度の炭化水素類の分子状酸素による選択的な触媒的酸素化反応,および,末端アルケンへの酸素・窒素求核剤の触媒的逆マルコフニコフ型付加反応についても引き続き検討を行う。 これらの進捗状況を総合すると,本研究は現段階ではおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
NNP-ベンジルパラジウム錯体と酸素との反応については,酸素が反応した直後の錯体について詳細に調べることによって反応機構のさらなる解明を進める。また,この反応性に関してこれまでに得られた知見に基づいて,今後,NNP-パラジウム錯体を触媒として用いての,酸素による炭化水素類のC-H結合の選択的な酸素化反応,および,アルケン(特にスチレン誘導体)への酸素または窒素求核剤による求核攻撃とそれに続く酸素を用いた酸素官能基導入による二官能基導入反応,の開発をそれぞれ試みる。特に後者の触媒反応については,アルケノールなどの分子内に求核部位をもつ基質を用いたほうが進行しやすい可能性が考えられるため,それらの基質を合成したうえで触媒反応を検討する予定である。また,後者の反応と関連して,酸素雰囲気下ではなく不活性ガス雰囲気下での末端アルケンへの酸素または窒素求核剤の触媒的逆マルコフニコフ型付加反応も引き続き検討する。 不飽和化合物の水素化反応については,NNPおよびNPN-ルテニウム錯体触媒系の両方について高い触媒活性が得られるよう種々の反応条件最適化をさらに進めると共に,反応溶液中で生成する中間体について観測・単離・構造決定を試み,反応機構の解明を行う。また,ルテニウムに代えて同族の鉄を用いた触媒系(NNPまたはNPN-鉄錯体触媒系)による水素化反応の開発も試みる。
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