2021 Fiscal Year Research-status Report
剛直な平面構造を有する新規有機分子触媒を用いる不斉合成反応の開発
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21K05065
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
折山 剛 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (90185687)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 有機分子触媒 / (S)-プロリン / キラル1,2-ジアミン / ラセミ第一級アルコール / 不斉アシル化 / 速度論的光学分割 / 量子化学計算 / CH-π相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
キラルなアルコールは、医薬品などの合成において重要な中間体であり、これまでに数多くの合成法が報告されている。特に、酵素や金属触媒、有機分子触媒を用いるアルコールの不斉アシル化による速度論的光学分割は、キラルな第二級アルコールを合成する有力な手段として確立されている。一方、第一級アルコールの速度論的光学分割は、不斉誘導が一般に困難であり、報告例が極めて少ない。研究代表者は、酵素を用いない初めての第一級アルコールの速度論的光学分割として、(S)-プロリンから誘導されるキラルな1,2-ジアミン触媒を0.3 mol%用いるだけで、グリセロール誘導体の光学分割が最高97%eeで進行することを2005年に報告した。しかしながら、ヒドロキシ基のβ位に酸素原子などを含む官能基を有さない第一級アルコールの速度論的光学分割は非常に困難であり、エナンチオ選択性がほとんど発現しなかった。 そこで、β位に官能基を有さない第一級アルコールの速度論的光学分割を達成するために新規有機分子触媒の設計・開発と量子化学計算を用いる反応解析を行った。(S)-プロリンから簡便に誘導される剛直な平面構造を有する新規キラル1,2-ジアミンを有機分子触媒として用いて、β位に官能基を有さない第一級アルコールの速度論的光学分割が高いエナンチオ選択性で進行することを見出した。ジヒドロベンゾイソキノリン骨格を有するキラル1,2- ジアミンを1 mol%用いるだけで医薬品の合成中間体として用いられる第一級アルコールが最高s値19、95%eeで得られた。また、DFT計算を用いる反応解析により、遷移状態におけるジアミンとアルコール基質間のCH-π相互作用による安定化が選択性の発現に重要であることを見出した(JOC, 87, 4468-4475(2022))。本反応は、医薬品などの重要な化合物合成に利用できることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
meso-ジオールの非対称化生成物は、天然物の不斉全合成など種々の変換反応へと展開できる重要なキラルビルディングブロックである。これまでに、meso-1,2-ジオールの不斉アシル化による非対称化は数多く報告されているが、有機分子触媒を用いる不斉シリル化による非対称化は、研究代表者が知る限りわずか3例のみである。Hoveydaらは、アミノ酸のロイシンから誘導したキラルなアミドを用いてモノシリル化を行い、91~95% ee で非対称化生成物を得ているが、有機分子触媒を20 mol%用いる必要がある。 一方、研究代表者は、触媒的不斉アシル化反応を開発し、わずか 0.5 mol%のキラル1,2-ジアミン触媒を用いるだけで、最高で化学収率 83%, 光学収率 96% ee で meso-1,2-ジオールの非対称化が進行することを明らかにした。そこで、不斉アシル化に続いて反応系内でシリル化を行った後、さらに脱ベンゾイル化を行えば、高い光学純度を保持したままキラルなモノシリルエーテルが得られるのではないかと着想した。以下のとおり、段階的に研究を推進している。 ・meso-1,2-ジオールのモデル化合物として、cis-シクロオクタン-1,2-ジオールを選び、ワンポット不斉アシル化-シリル化の詳細な反応条件の検討を行う。具体的には、有機分子触媒、反応溶媒、シリル化剤等の検討を行う。 ・得られたシリルオキシ安息香酸エステルのエステル部位を還元し、対応するモノシリルエーテルを得る条件を検討する。 ・最適な非対称化条件を用いて、種々のmeso-1,2-ジオールの非対称化を行い、基質適用範囲を明らかにする。得られたモノシリルエーテルの光学純度をHoveydaらの手法による結果と比較して、本反応の優位性を精査する。 以上のことより、「おおむね順調に進展している。」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者が開発したジヒドロベンゾイソキノリン骨格を有するキラル1,2-ジアミンが、meso-1,2-ジオールの非対称化の有機分子触媒として有効であるかを検討するとともに、種々のキラル1,2- ジアミンを精査して、エナンチオ選択性の向上をめざす。 生成物の高いエナンチオ選択性だけでなく、触媒量の低減やアトムエコノミーの観点からも、真に有用な非対称化反応の開発をめざす。 この反応の開発研究を通して新規有機分子触媒の有用性・実効性を明らかにするとともに、高精度量子化学計算により不斉合成反応機構の理論的かつ合理的な解明を行い、有機分子触媒による反応活性化の本質的な理解もめざす。
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Causes of Carryover |
本研究の遂行に必要な試薬等の消耗品を購入する予定であったが、3月は研究が予定よりも進まず、18,210円(全体に対して1.2%程度)の次年度使用額が生じた。これについては、令和4年度の試薬等の物品費として合わせて使用する予定である。
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Research Products
(4 results)