2021 Fiscal Year Research-status Report
高活性・高選択的な遷移金属触媒反応を実現するジホスフェン配位子の開発
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21K05071
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
津留崎 陽大 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40623848)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ジホスフェン / 遷移金属錯体 / 触媒反応 / 軸不斉 / 1,1’-ビナフチル / リン / パラジウム |
Outline of Annual Research Achievements |
遷移金属触媒反応において、配位子の選択は反応活性および位置・立体選択性を制御する上で極めて重要である。リンーリン二重結合を有するジホスフェンには、その二重結合のπ*軌道に由来した特徴的な低いLUMOが存在するため、高いπ受容性を示すと予測されるものの遷移金属触媒反応への応用は十分に検討されていない。本研究では、ジホスフェン部位を有する新規配位子の合成、後周期遷移金属錯体の創出、触媒的有機合成反応への展開を通じて、ジホスフェン配位子による高効率な触媒的変換反応を達成することを目指している。 本年度は、新たな二座配位子であるエチレン架橋ビス(ビナフチルジホスフェン)を合成するとともに、パラジウム(II)錯体との錯形成反応を検討した。カチオン性のπアリルパラジウム(II)錯体との反応では、ビナフチル基上の二つの非共有電子対が配位したビスジホスフェン錯体が得られた。一方、ジクロロ(1,5-シクロオクタジエン)パラジウム(II)との反応では、パラジウムからリンへの塩素の転位を伴って、ジホスフェン/ホスファニルホスフィド錯体が得られることが分かった。電子受容性の高いリン-リン二重結合部位が塩素の転位を引き起こしたものと考えられる。X線結晶構造解析による構造決定には至らなかったが、想定される異性体の構造最適化およびGIAOによる化学シフト値の計算結果により、この構造が適切であると判断した。また理論計算により、パラジウムからリン上への転位は、1)パラジウム,塩素,リン,リン原子による四員環構造の形成、2) パラジウム-塩素結合開裂とリン-塩素結合形成、3) リン原子の再配位の三段階を経て進行することを明らかにした。今後は得られた錯体を用いた触媒反応へと展開していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
単座のジホスフェン配位子を用いた場合には遷移金属元素との錯形成は限定的であったが、新たな二座配位子であるエチレン架橋ビス(ビナフチルジホスフェン)の合成が実現できたことにより、新たな遷移金属錯体を得ることにつながった。今回達成したパラジウム錯体もその一例であり、単座配位子では対応するパラジウム錯体を得ることができなかったこととは対照的である。また、ジホスフェンーパラジウム(II)錯体の初めての例であり、電子受容性のジホスフェン部位を反映した塩素原子の転位など新たな知見を得ることにもつながった。これらの研究成果は本研究の目的と合致し、おおむね計画どおりであることから、上記の自己評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
得られたパラジウム錯体を用いた遷移金属触媒反応へと展開する。特に、他の配位子では実現しえないジホスフェン錯体独自の反応の開拓に注力する。また、パラジウム以外の遷移金属元素との錯形成反応や他の配位子合成にも着手する予定である。
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