2021 Fiscal Year Research-status Report
Development and study of new pyroelectric / ferroelectric molecular materials based on intramolecular electron transfer
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21K05086
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
金川 慎治 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (20516463)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 外場応答性 / 分子磁性 / キラリティ / 非対称複核錯体 / 極性結晶 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究で定めた重点課題のうち、課題「キラリティを用いた非対称、擬対称分子結晶の作成と合成的手法による機能制御」の推進のため、新規配位子の設計と合成を行った。これまで用いていたキラル環状四座配位子Lに二つのメチル基を導入した配位子を新たに合成し、ラセミ体(rac-)及びエナンチオピュア(RR-またはSS-)な配位子LMe2をそれぞれ対応する出発物質から3段階で得ることに成功した。 新規に得られた配位子を用いてコバルト単核錯体を合成し、結晶構造解析により構造決定を行った。興味深いことに中心金属Co周りの立体構造は元の環状四座配位子錯体と新規錯体とで反転していることが分かった。これは配位部位の窒素原子に導入したメチル基の立体障害を避けるためであると考えられた。 続いて、目的とする非対称な構造を有する異核複核錯体の合成を実施し、異なる配位子の組み合わせを持つ[CrCo]複核錯体の合成に成功した。CrにL、CoにLMe2が配位した錯体1とCrにLMe2、CoにLが配位した錯体2について結晶構造解析に成功した。錯体1,2は互いによく似た分子構造を有していたが、金属周りの電子状態が異なっていると考えられた。1と2の結晶サンプルの磁気測定を実施したところ、錯体2においてのみ温度に依存した急激な磁化率の変化が観測された。赤外吸収スペクトルの温度依存性と合わせて解析することで、これはコバルトー架橋配位子間での分子内電子移動(原子価互変異性)であることが明らかになった。 コバルト中心側の配位子が分子内電子移動挙動に大きな影響を与えるということが分かった. これは配位部位である窒素原子へのメチル基の導入によって電子的、 立体的な要因で低スピン3価Co状態を取りにくくなったためであると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究により、新規配位子の合成に成功した。今回合成した配位子はこれまで複核錯体のターミナル配位子として用いてきた配位子にメチル基を導入したものであった。修飾した新規配位子を少ない反応段階、良好な収率で得られる合成ルートを見出したことから、今後様々に修飾を施した新規ターミナル配位子の設計が可能となった。 新規配位子を用いた錯体に関しても目的とする非対称構造を有する異核複核錯体の合成に成功した。以上のことから本研究課題の推進において重要である「類似の構造を持ちながら電子状態と物性が異なる系統的な分子群」を合成的に得ることが十分に可能になった。 実際に得られたいくつかの非対称異核複核錯体の結晶構造解析や磁気測定から、組成や分子構造が互いに非常に似通っているにもかかわらず結晶における分子のパッキングや原子価互変異性挙動の有無に明確な差異が見出されている。現段階ではこれらの違いが生じる原因については不明な点が多く、構造や物性の制御が可能であるといえるほどには多くの結果は得られていない。本研究は分子内電子移動を示す分子の新規物性を開拓・解明することを重要な課題としていることから、原子価互変異性錯体やその周辺化合物を広く探索する必要があると考えている。そうした中で本年度に合成的な問題について解決できたことは、今後の研究の推進に当たって重要な成果であったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
新分子の探索については今回新たに合成した新規ターミナル配位子をもちいて、金属イオンや対アニオンの異なる非対称異核複核錯体の合成をさらに進める。系統的に得られる一連の化合物の結晶構造解析や磁気測定・誘電測定を通じて、分子内電子移動を起源とする焦電・強誘電性物質を探索する。これまでのところ、このような焦電現象を示す物質は我々が報告した2例に限られているが、本課題での探索を通じてその例を増やし、比較検討していくことで現象の詳細解明を進めていく。 一方、分子内電子移動焦電現象の光や電場といった外場応答性を検討するためには新たに測定や解析の手法を開拓する必要がある。こちらについては既存の擬対称異核複核錯体を用いて進める。現在までに予備的な実験において光照射実験や電場印加測定を検討した。特に光照射実験においてはある種の光発電といえるような結果が得られている。測定装置の改善や量子化学計算などを組み合わせた解析によってこれらについて明らかにしていくことを計画している。
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Research Products
(2 results)