2021 Fiscal Year Research-status Report
再生可能な有機ヒドリドを創出しうる錯体触媒の開発と高機能化
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21K05097
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Research Institution | Shizuoka Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
小泉 武昭 静岡理工科大学, 総合技術研究所, 研究員 (60322674)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 再生可能ヒドリド / ルテニウム / ロジウム / ヒドリド還元 / 結晶構造 / 電解還元反応 / 多電子還元反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、有機物の還元反応に用いられ、特に二酸化炭素の多電子還元の実現において最も重要な鍵化学種であるヒドリド (H-) を再生可能な条件で生成できるシステムの構築を目指したものである。電力と水により再生可能なヒドリド種を生成しうる金属錯体を設計・合成し、有機物の高効率な還元、すなわち自然エネルギーの有機物への貯蔵、および二酸化炭素の多電子還元によるメタノール生成を実現するための技術開発を目的とする。令和3年度は、本研究の目的に沿ったNAD+/NADH型酸化還元能を示すユニットを配位子に含む金属錯体の創製を目指し、2-(2-ピリジル)ベンゾ[b]-1,5-ナフチリジン(pbn)、ジベンゾ[c,h]-1,9,10-アンチリジン(dbanth)およびその誘導体(dbanthCl2)の合成を行い、これらを配位子にもつ新規金属錯体の合成について検討を行った。 dbanthおよびdbanthCl2を、既報をモデファイした方法により合成し、これらを配位子とする新規金属錯体の調製に取り組んだ。[RhCl3(tpy)] (tpy = 2,2':6,2"-ターピリジル)、[IrCl3(tpy)]、[RuCl2(CO)2]n、[RuCl2(dmso)4]などの錯体に対してdbanthを反応させ、生成物の構造について検討した。[RhCl3(tpy)]との反応では、dbanthを架橋配位子とする二核構造をもつ錯体が得られた。 pbnは、以前の筆者らの研究により、NAD+/NADH型の酸化還元システムを実現する上で有望な配位子であることが見出されている。筆者らによって以前開発されたpbnの合成方法は、7段階を要し、且つ反応試薬として毒物を用いる必要があるなど、改良の必要があった。そこで、研究協力者である田中晃二・京都大学特任教授のグループで開発した合成方法を参考に合成を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度は、dbanthおよびdbanthに対してクロロ基を置換基として導入したdbanth-Cl2の調製、およびこれらを配位子に有する金属錯体の合成を行った。これに加えて、従来法とは異なるpbn配位子の合成にも取り組んだ。 dbanthと[RhCl3(tpy)]との反応では、dbanthに対して2当量の[RhCl3(tpy)]が反応することにより、Rh(II)-Rh(II)をコアとするdbanth架橋二核錯体 [Rh2Cl(tpy)2(μ-dbanth)](PF6)3 ([1](PF6)3)が生成した。同定は各種NMRスペクトル、ESI-MSおよび単結晶X線結晶構造解析により行った。dbanthCl2を用いた場合も[1](PF6)3と同様の錯体[2](PF6)3が生成していることを1H-NMRおよびESI-MSにより明らかにした。一方、[IrCl3(tpy)]を用いた場合は、反応は進行したものの[1](PF6)3とは異なる構造の生成物が得られていることを示唆する結果が得られた。[RuCl2(CO)2]n、[RuCl2(dmso)4]との反応では、それぞれRu-dbanth結合を含む化合物が生成したと考えられるが、構造決定には至っていない。平行してpbn配位子の合成に取り組み、あと2段階で合成を終了できるところまで進行させた。 筆者は令和3年4月に東京工業大学から静岡理工科大学に異動した。そのため、研究のための装置等の移動が必要となったことに加えて、設備等に大きな変更があった。令和3年度は神奈川県および静岡県に新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置および緊急事態宣言が出され、その期間は実験装置・ガラス器具や試薬等を移動出来なかったため、研究開始が予定より遅れた。以上の理由により、本研究の進捗はやや遅れていると言わざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度の検討より、dbanth(あるいはdbanthCl2)を配位子にもつ幾つかの新規遷移金属錯体の合成に成功したと考えられる結果を得た。一方、もう一つの有力な配位子であるpbnは現在合成途上にある。これらの結果を受け、令和4年度は以下の通り研究を推進する予定である。 1.令和3年度に合成したdbanthを配位子にもつ各錯体について、各種測定(NMR、ESI-MS、単結晶X線解析)による同定を行い、その構造を確定する。ESI-MSは名古屋市工業研究所、単結晶X線は東京工業大学オープンファシリティセンターにそれぞれ測定を依頼する。 2.現在合成途上にあるpbnの合成を完了し、錯体の合成検討を行う。目的とする反応を遂行するためには、pbn配位子中のNAD+に相当するユニットと基質の配位座がお互いにcis-位に位置することが望ましい。これを鑑みて、脱離可能な配位子であるCl、CO、dmsoなどをもつ原料錯体([RuCl2(CO)2]n、[RuCl2(dmso)4]など)を用いて錯体合成を試みる。さらに、pbnを2つもつRu錯体、[Ru(pbn)2Cl2]の合成を行い、Cl配位子を適切な支持配位子に交換することで、目的に沿った錯体を創製する。 3.上記で合成した各錯体について、サイクリックボルタモグラム(CV)の測定を行い、電気化学的性質について明らかにする。酸、二酸化炭素、カルボニル化合物やオレフィンなどの各種有機基質存在下でのCV測定により、錯体の電気化学的挙動・各種基質との相互作用の有無を明らかにする。 4.dbanthとCOを配位子にもつ錯体については、バルク電解を行い、分子内でのdbanth窒素-カルボニル炭素の結合生成、およびNADH型構造の構築について検討する。pbnを持つ錯体については、酸性溶液中での電解還元を行い、NADH型への変換ができるかどうかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
令和3年度は、筆者が東京工業大学から静岡理工科大学へと異動したことに伴い、研究設備等の大幅な変更があったこと、研究に必要な装置の移設および実験器具・試薬の移動が新型コロナ蔓延防止等重点措置および緊急事態宣言発令のため迅速に行えなかったことにより、研究の進行がやや遅れてしまっている。そのため、必要な機器・器具・試薬類の購入が後ろ倒しになっている。実験に必要な高価な金属塩類(塩化ロジウム、塩化ルテニウムなど)は吸湿性が高い等、取扱いに注意を有するため、使用の直前に購入することが望ましい。配位子合成のための有機試薬等についても、空気中で不安定なものが数種類あり、合成の進捗に合わせて購入を進める都合上、本年度の発注を必要分にとどめ、次年度に購入を繰り越すこととした。これに伴い、使用予定の製作に時間のかかる特注ガラス器具等についても発注を次年度に持ち越すこととした。以上の理由により、次年度への繰り越しが生じた。
【使用計画】 錯体合成、配位子合成を進めるのに合わせて必要な試薬類を順次発注していく。これとともに、電気化学測定、電解還元反応に必要な各種装置、消耗品、ガラス器具類などの購入に用いる。
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Research Products
(1 results)