2021 Fiscal Year Research-status Report
Development of a general-purpose force field for analyzing the crystal structure and dynamic behavior of organometallic complexes
Project/Area Number |
21K05105
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Research Institution | CONFLEX Corporation |
Principal Investigator |
中山 尚史 コンフレックス株式会社(研究), 研究, 主任研究員 (90402669)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 分子力場ポテンシャル / 有機金属錯体 / 希土類元素 / 分子性結晶 / フラグメント分子軌道法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、有機金属錯体で構成される分子性結晶の構造変化に伴う物性を計算化学的手法により解析するため、結晶構造とその動的挙動の両方を再現することを志向した汎用的な古典力場の開発を進めている。 (1)青山学院大学長谷川グループらとの共同研究により、2つのビピリジンがエチレンジアミンで架橋された螺旋状の六座配位子を持つ一連の希土類錯体(Pr, Nd, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm)について、遊離したイオン状態での希土類元素の非結合相互作用に関わる力場ポテンシャルを決定し、類縁化合物も含めた複数の既知結晶構造を再現することに成功した [Bull. Chem. Soc. Jpn. 2021, 94, 2973-2981]。 (2)星薬科大学米持・福澤グループとの共同研究により、フラグメント分子軌道(FMO)法を用いた結晶エネルギーの高精度化に取り組み、古典力場を用いて探索した2-((4-(3,4-Dichlorophenethyl)phenyl)amino)benzoic acidの結晶構造についてエネルギーの再評価を行ったところ、実測構造を安定構造として見出すことに成功した[J. Comput. Chem. Jpn. 2021, 20, 92-93]。 (3)北海道大学長谷川グループらとの共同研究により、分子結晶中での変形により連結して強い発光特性を示し、また中心金属である希土類元素が変わることで発光波長が大きく変化し、さらに異なる希土類元素の結晶同士を連結することで光情報を一方向に伝達することを見出した希土類錯体について、錯体が連結する過程において重要なピリジンの配位と、錯体単体での発光波長を、量子化学計算により解析することに成功した。[Nature Commun. in press]。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
有機金属錯体は、中心金属と配位子との組み合わせにより様々な光学特性や触媒活性を呈し、その性質を決定するのは固体であればその結晶構造と、外部刺激による構造変化である。古くから、密度汎関数法を中心とした電子状態計算により結晶構造を再現し、その物性を解明する試みが行われている。一方で、遷移金属を含まない有機分子のみの系では、様々な構造を広く網羅する必要性から、古典的な分子力場による構造解析も多く為されている。有機金属錯体の結晶構造を、古典力場を用いた分子シミュレーション手法により正確に特定することができれば、結晶構造未知の錯体について候補構造を網羅的に探索し安定構造を見出すために要する時間の大幅な短縮が期待できる。 本研究では、イオン性の希土類元素10種について力場パラメーターを決定し、複数の希土類錯体についてそのパラメーターを用いた結晶構造最適化計算を行ったところ、実測データに対するRMSD20(結晶内20分子の重ね合わせ)が0.61A以内で一致した。希土類錯体は発光特性を有するものが多く、光学材料の分子設計にこれらのパラメーターを用いた計算技術が有効に活用できると考えられる。 有機金属錯体の分子シミュレーションの高精度化には、配位子となる有機分子用の既存の力場パラメーターの改良や新規パラメーターセットの構築も必要となる。その際、X線結晶構造解析により得られる構造データだけでなく、実測構造の安定性を高精度に再現できる電子状態計算手法の活用が欠かせない。本研究で、主に生体高分子の全電子計算に適用されることが多かったFMO法を、有機分子の結晶構造の安定性の評価に適用し、実測構造が安定構造中に見出されることを初めて明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、昨年度に引き続き有機金属錯体用の結晶力場を構築する。東京都立大学中谷グループ、関西学院大学加藤グループとの共同研究で、ベイポクロミズムを呈するNi錯体の分子力場構築と未知結晶構造の探索、得られた結晶構造の電子状態計算を行っており、現在論文作成中である。また、電気通信大学平野グループとの共同研究で、結晶が熱分解することに伴い発光を呈する分子についてそのメカニズムを計算化学的手法により明らかにしており、現在さらに研究を進めているところである。 また、力場パラメーターを決定するための参照データとなる電子状態計算手法として、密度汎関数法だけでなくFMO法の活用を検討していく。日本発の電子状態計算手法であるFMO法は、汎用性が高くかつ計算精度を段階的に上げていくことが可能であり、分子間の弱い相互作用により構造とエネルギーが既定される分子性結晶の評価にはうってつけである。昨年発表した有機分子と同様の精度で結晶のエネルギー準位を評価することが可能であれば、実測構造の予測精度の向上に大きく寄与することが期待される。 さらに、上記した以外でも、緩やかな外部刺激により構造変化を引き起こし興味深い物性を示す有機金属錯体結晶について、その構造データを抽出・分類し、力場に使用するパラメーターセットを構築していく。データの蓄積と並行して、パラメーター全体を再検証し高精度化していくシステムを構築する。高精度かつ汎用的な力場の構築により、実測構造だけでなく結晶相転移などの動的な挙動を再現し、有機分子触媒や材料設計に資することを目指す。
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