2021 Fiscal Year Research-status Report
イオン液体の調湿機構解明による省エネ・イオン液体調湿空調機の開発
Project/Area Number |
21K05159
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Research Institution | Toyota Physical and Chemical Research Institute |
Principal Investigator |
伊藤 敏幸 公益財団法人豊田理化学研究所, フェロー事業部門, フェロー (50193503)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | イオン液体 / 吸湿性 / 平衡水蒸気圧 / ジカチオン性第4級アンモニウムリン酸ジメチル / 金属腐食性 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在,世界では1億台以上のエアコンが稼働しているとされ,省エネエアコンの開発はサスティナブル社会実現のために重要な課題である。液式調湿空調機は現行のコンプレッサータイプの空調機に較べて低消費電力であり,しかも換気しながら空調を行うことができるという特徴があり,COVID-19のような感染症対策に有効な空調機になると期待される。現在の液式調湿空調機は30%塩化リチウムを調湿材として使用しているが,リチウムは産出国が偏在する元素である。そこで,塩化リチウムに替わる新たな液式調湿空調機の調湿材を探索するためイオン液体に着目し,21種の第4級アンモニウムリン酸塩を合成したところ,ジカチオン性第4級アンモニウムリン酸ジメチルが極めて潮解性で強い吸湿能力を示すことがわかった。ジカチオン性第4級アンモニウム塩ではカチオン間のアルキル基のメチレン鎖長が長くなるにつれて吸湿性能が向上し,HMC2 ((CH2)2 )< HMC3 ((CH2)3 ) < HMC6 ( (CH2)6)の順番に吸湿能(DC)が増加する現象を見いだした。これら第4級アンモニウムリン酸塩の吸湿能や水蒸気吸収速度は,塩化カルシウムなどの既知の乾燥剤を大きく凌駕する吸湿性能を示し,最も吸湿速度が大きな[DETMC2OC2][DEPO4]2は塩化カルシウムと比較してモル当たり吸湿能(DC(mol))で10倍,グラム当たり吸湿能(DC(g))で2倍の吸湿性を示した。さらに,今回合成した第4級アンモニウムリン酸塩の80%水溶液は,低温で平衡水蒸気圧が低く高温で高いという調湿材として好ましい平衡水蒸気圧特性を示すことがわかった。また,高い吸湿性を示した[HMC6][DMPO4]2の80%水溶液は金属腐食性も低く,銅についてはわずかに腐食性が認められたが,スチール,アルミニウム,ステンレスには腐食性を呈さなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
調湿性に焦点を当ててイオン液体のデザインを検討し,第4級アンモニウムカチオンとリン酸メチル,リン酸エチル塩が優れた調湿機能を持つことを明らかにし,典型的な乾燥剤である塩化カルシウムを遙かに凌駕する吸湿性能を示す第4級アンモニウムリン酸ジメチルを見いだした。従来,イオン液体の吸湿性は主にアニオンに依存し,アニオンが同一の場合は小さなカチオンからなるイオン液体の吸湿性が大きいとされていた(L. E. Ficke and J. F. Brennecke, J. Phy. Chem. B, 114 (2010) 10496-10501)。ところが,今回合成した第4級アンモニウム塩のなかで,ジカチオン性第4級アンモニウム塩においては,その吸湿性は,従来定説とされていた置換基効果と異なり,カチオン間のアルキル基のメチレン鎖長が長くなるにつれて吸湿性能が向上し,HMC2 ((CH2)2 )< HMC3 ((CH2)3 ) < HMC6 ( (CH2)6)の順番に吸湿能(DC)が増加するという現象を発見した。またイオン液体の水溶液では低温時と高温時の平衡水蒸気圧差がカチオンの側鎖置換基で大きく変化することを見いだした。このように,吸湿性イオン液体のデザインを考察する上で有意義な実験結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
第4級アンモニウム塩については高い吸湿性を示すイオン液体の合成についてある程度の指針が得られた。置換基と吸湿性の関係についてMDシミュレーション実験を進めている。現時点では明確な計算結果はでていないが,さらに精密なSIMレーション実験を続ける。 さらに,本年度については,従来,系統的に吸湿性能が調べられていなかったトリアゾリウム塩,ピラゾリウム塩について様々な置換基を持つ化合物を合成し,吸湿性能を評価し,構造と吸湿性能の相関を調べる。さらにこれらの化合物についても吸湿性のMDシミュレーション実験を進める。
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Research Products
(4 results)