2021 Fiscal Year Research-status Report
ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)の覚醒反応の機構解明と制御
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21K05198
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
駒口 健治 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 准教授 (80291483)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ヒンダードアミン系光安定剤 / Denisovサイクル / 光酸化反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)のモデル化合物として,セバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル,SBPM)、溶媒にジクロロメタン(DCM)を用い,初期活性化状態(ニトロキシドラジカル)の生成量および安定性と各種条件(試料濃度,照射光波長,酸素の有無など)との関連を調査した。 初めに,照射光強度とラジカルの生成量を調べ、ESR分光器の検出感度の限界値を考慮して、SBPMの基準濃度を10 mMとした。キセノンランプからの光をシャープカットフィルターで照射光波長を制御して照射したところ、SBPMの初期活性化反応(HALSの覚醒反応)には、紫外光が主に寄与していることが分かった。このことは,SBPMの光吸収特性と一致しているが、反応機構に関する知見を得るためには紫外光の波長領域についてさらに詳しく調べる必要がある。また、SBPMの初期活性化には、酸素が必要であることを確認した。初期活性化状態の生成量は、照射光強度や酸素濃度に比例して増加した。 本実験では、DCMを溶媒に用いた。これは、以前に実施していた塗膜劣化評価でHALSの抽出用溶媒としてDCMを使用していたためである。DCMを用いると,短時間の光照射で初期活性化反応の進行を確認することができた。しかし、光照射を続けると、活性化状態の生成速度は低下し、さらに照射を続けると減少した。この原因として、DCMの光分解で生じる化学種との反応が考えられる。DCMに代わる溶媒として、アセトニトリルなどの紫外光に比較的安定な溶媒の調査を行ったが、DCMのような短時間(~10分)の光照射で初期活性化反応の進行は確認することができなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
以前に実施していた塗膜劣化評価の研究において,塗膜からHALSを抽出するために用いた溶媒としてDCMを使用していた。このことから、本実験では、SBPMが高い溶解性を示すDCMを溶媒に用いた。しかし、DCMの光分解により生成した化学種がHALSの活性化状態と反応するために、長時間照射では活性化状態が減少することが示唆された。そこで、SBPMを溶解し、かつ紫外光に対して比較的安定な溶媒として、アセトニトリルやイソプロピルアルコールなどを調査したが、DCMのような短時間の光照射で初期活性化反応の進行を確認できる溶媒を見つけることはできなかった。また、初年度は、通常使用しているESR装置(JEOL RE-1X)の故障が2度生じ、修理に2か月以上を要した。これらのことが遅延の大きな原因となった。
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Strategy for Future Research Activity |
ジクロロメタン(DCM)以外の溶媒を用いて、HALS化合物の初期活性化反応の調査を行う。DCMを溶媒に用いた結果は、本研究の目的の達成には望ましくないが、塩素ラジカルと活性化HALSとの反応を観測している可能性があり、塩素を含む有機高分子樹脂中の活性HALSの劣化防止の反応と関連付けることができるかもしれない。 HALSは、実際には、固体状態の有機高分子樹脂中で使用されるので、初期活性化反応を調べるために用いる媒体は液体よりもポリウレタンなのどの高分子樹脂のような固体が望ましい。そこで、単純なモノマーを用いてウレタン樹脂を実際に合成し、初年度のDCM系と同様の手順で実験を行い、溶液系の結果と比較する。次年度は、ウレタン樹脂のモノマーとして、ヘキサメチレンジイソシアネート(OCN(CH2)6NCO)とブタンジオールおよびブタントリオール(いずれも市販品)を用いて、単純な構造を有するウレタン樹脂の合成を行う。所定の比率(3:7, 5:5, 7:3など)で混合し、SBPM類の添加量を0.2, 0.5, 1, 2, 3 wt%と変化させ、ガラス基盤に塗布して、加熱して重合硬化を促進させる。NMR法、赤外分光法、熱分析法などでウレタン結合の生成と高分子化を確認する。硬化のための加熱によるHALSの反応についても調査する。合成手法を確立後、超高圧水銀ランプからの光を照射し、SBPMに由来する常磁性種のESR測定を行う。
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Causes of Carryover |
研究を遂行する上で、基準溶媒として用いたジクロロメタンに問題がある可能性が高いことがわかり、代替溶媒を至急調査したが、ジクロロメタンに代る有望な候補見つけることができなかった。また、昨年度は、通常使用しているESR装置(JEOL RE-1X)の故障が2度生じ、修理に2か月以上を要した。これらのことが研究遅延の大きな原因となった。今年度は、通常使用のESR装置の故障に備えて、本学にある別のESR装置(大学連携研究設備ネットワークに登録されている学内の共通利用機器,Bruker E500)を使用して本研究を実施できるように体制を整える。本年度の予算で、本学の共通機器のESR装置に使用可能な紫外線光源の購入を予定している。
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