2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K05206
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
川畑 公輔 東北大学, 理学研究科, 助教 (10710212)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ドナーアクセプターポリマー / 近赤外吸収 / 高分子半導体 / キノイド |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、可溶性置換基を導入したナフトジカルコゲノフェンジオン構造を含むポリマーの合成に取り組んだ。前年度、ナフトジチオフェンジオンの中央ナフタレン環のペリ位に可溶性置換基を、また縮環チオフェンβ位にブロモ基を有する化合物を合成し、これがStilleカップリングに利用可能であることを明らかにした。しかし、このジブロモ体を用いたカップリング反応は、分解反応が競合するため定量的には進行せず、重合反応として不適であった。一方、ナフトジフラノン骨格を用いて、同様の位置に可溶性置換基を導入し、縮環フランβ位にブロモチエニルを有する化合物を用いた場合、カップリング反応は定量的に進行し、重合に利用可能であった。可溶性置換基として2-デシルテトラデシル基を導入したナフトジフラノンとクアテルチオフェンから成る共重合体(P1)を合成したところ、難溶性の黒色固体が得られた。可溶部の吸収スペクトルは、最大吸収波長1090 nm、吸収端エネルギー0.8 eVを示し、これは既報のナフトジフラノンアクセプターを有する高分子半導体の吸収端エネルギー(>1.25 eV)と比べて非常に小さい。この結果は、主鎖の共平面性とドナーの電子供与性の観点から、五員環であるチオフェンドナーの選択が重要であることを示す。P1の低溶解性を改善するために、ドナー部にデシル基を二つ導入した誘導体(P2)を合成したところ、分子量13 kDaの可溶性高分子が得られた。P2の最大吸収波長(1020 nm)はP1と比べて短波長シフトしたものの、P1と同様に極めて小さい光学バンドギャップ0.8 eVを示した。さらに、P2は深いHOMO準位(-5.3 eV)およびLUMO準位(-3.9 eV)を有することから、ジアルキルナフトジフラノンが極狭バンドギャップポリマーにおける有望なアクセプター骨格であることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
二年目において、当初提案していた剛直なπ拡張キノイド骨格の一つであるナフトジフラノンについて、これを主鎖構造に含むドナーアクセプターポリマーの合成に成功し、これが期待通り小さな光学バンドギャップに加え、低いフロンティア軌道のエネルギー準位を有することを明らかにできた。ナフトジフラノン骨格自体は既知であるものの、ナフトキノイド骨格を基盤とする既報のドナーアクセプターポリマーに比べ、非常に小さな光学バンドギャップが得られたことから、キノイド構造を基盤とした極狭バンドギャップポリマーの分子設計指針に関して重要なの知見を得ることができた。最終年度においては、本骨格を基盤とした種々のポリマーの合成、構造物性相関の調査、機能評価を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目において、ジアルキルナフトジフラノン構造を主鎖に含むドナーアクセプターポリマーの合成に成功し、これが0.8 eVもの小さい光学バンドギャップに加え、両極性の電子材料として有望な電子構造を有していることを明らかにした。このため、最終年度は主にナフトジフラノン骨格を基盤とするポリマーについて、種々のドナーユニットと組み合わせたポリマーの合成および評価により、材料の光吸収やフロンティア軌道のエネルギー準位等の電子物性の制御、構造物性相関の解明、および機能評価に取り組む。特に、キャリア輸送能およびその大気安定性向上のために、フロンティア軌道のエネルギー準位を下げかつ剛直な主鎖構造を与える、チアゾールを基盤とする電子供与性の低いドナーユニットとの共重合体の合成を試みる。また、溶液プロセス可能な高分子量体を得るために十分な溶解性を与えつつも、主鎖構造のポテンシャルを最大に引き出すための、側鎖の種類および導入位置についても検討する。合成したポリマーについては、吸収スペクトル測定、電気化学測定、光電子分光による基本的な電子構造の評価に加え、薄膜X線回折やAFM測定による薄膜の微細構造の評価、また、有機電界効果トランジスタの作製評価によるキャリア輸送能の評価を順次行う。ここで、長波長吸収に優れる材料については、電子ドナーもしくはアクセプター材料として、光電変換機能の評価を行う。また、低いLUMO準位を有するポリマーについては、n型ドーピングによってn型導電性高分子とした後、電気伝導やゼーベック係数の測定を行うことで、熱電材料としての機能評価についても検討する。以上のように、合成したポリマーの構造、物性、機能評価を通して、高性能極狭バンドギャップ高分子半導体材料の探索を進める。
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Causes of Carryover |
一昨年度末に地震によって学内の複数の共用機器が被害を受け、予定していた測定および分析依頼を行うことができていなかったため、測定・分析のための試料作製費用および機器利用料を使用できなかった。昨年度末ごろから機器の復旧の目途が立ち始めたことから、機器が復旧次第これらを用いて測定および分析を行う。
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