2021 Fiscal Year Research-status Report
Understanding of ultralong-lifetime phosphorescence in organic crystals of chiral molecules and development in material chemistry
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21K05207
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
唐津 孝 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (70214575)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 超長寿命りん光 / 有機結晶 / 固体発光 / キラル結晶 / ラセミ結晶 / π-π相互作用 / 水素結合 |
Outline of Annual Research Achievements |
採択前年度に見出した1,1-ジフェニル-1-エタノール誘導体の超長寿命りん光(励起光遮断後の発光強度減衰時間が長寿命であること)発現の機構解明を行った。この現象ではアキラルなジフェニルメチル基が結晶中でキラルな構造を取っており擬似的なラセミ対(鏡像異性体の対)を形成していること、またそのラセミ対がタイトな結晶構造形成につながり、ひいては分子運動の低減により無輻射失活を抑えて、発光強度増強と長寿命化を達成していることを明らかにした。 研究期間初年度である今年度は不斉炭素原子を有する1-フェニル-1,2-エタンジオールの誘導体3種類それぞれについてキラリティーがR体、S体、およびR:S=1:1のラセミ体の3種類、計9種類の単結晶を作成し、その発光スペクトルを溶液、溶液を低温がガラス化した状態、結晶状態で観測した。その結果、蛍光スペクトルの発光極大はガラス状態と結晶状態で0.06eVであるのに対し、りん光スペクトルは0.76eVの非常に大きな差があることが分かった。さらに単結晶X線構造解析により求めた分子構造やその構造に対して密度汎関数法を用いて2分子間相互作用を見積もった結果、りん光スペクトルの差異は結晶中では三重項エネルギーが少なくとも20分子の間にもわたって非局在化していることが示唆される非常に興味深い結果が得られた。 さらに、アミノ基が置換したフェニルアラニノールのR体、S体を検討したところ再結晶中にラセミ化が起き、十分な検討を行う事ができなかった。そこで環状骨格を持つ1-アミノ-2-インダノールの4つの光学異性体のうちジアステレオマーの関係にある(1R,2S)体および(1R,2R)体を検討したところ(1R,2R)体では発光量子効率が35%、寿命333ミリ秒の非常にきれいな黄色のりん光を観測することができた。今後、発光原理の更なる解明や発光の調色などに取り組んでゆく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分子設計として芳香環の選択によるπ電子系の拡張、分子間相互作用を得るための水素結合部位の位置と方向制御などの検討から、結晶状態でのりん光のエネルギーレベルは対象物質により多少はばらつきがあるものの、概ね非常に低いエネルギーを取ることが確認された。 発光能の普遍性を探るための物質化学的な物質構造の選択、その準備のための合成化学的手法の検討は計画通りに進んでいる。高い発光効率を示すものとそうでない物の差異はある位程度わかりつつあるが決定因子は明確にできた訳ではない。一方で芳香環の選択や、置換基としてメトキシ基やアミノ基などの電子供与基の導入により励起エネルギーを調整し発光色を調光することの予備的な実験は有効であった。例えば芳香環をベンゼン環からナフタレン環、およびピレン環に拡張したところ長寿命りん光は観測されなかった。芳香環を選択することは理由はまだ定かではないが長寿命りん光を発現できるかを決定するかなり重要なファクターであることが分かった。長寿命りん光を示すインダノール環にアミノ基を置換したところ、発光色が青色から黄色に変化することが分かった。 新たな実験の取り組みとして提案している偏光顕微鏡による結晶状態での発光の直接観測や第一原理計算による励起エネルギーの非局在範囲の検討は特色のある研究手法であると考えられるが、専門家の助言や支援が必要なため、今年度から着手する。Singlet Fissionとの関連性は最終年度に行う。 成果の学会発表は既に何件か行っているので、今後さらに増やしてゆく。論文発表はこれまでなく、現在初年度の成果を発表するための準備段階にある。
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Strategy for Future Research Activity |
研究初年度である今年度は不斉炭素原子を有するフェニルエタンジオールの誘導体3種類それぞれについてキラリティーがR体、S体、およびR:S=1:1のラセミ体の3種類、計9種類の単結晶を作成し、その発光スペクトルを溶液、溶液を低温がガラス化した状態、結晶状態で観測した。その結果、数百ミリ秒を超える長寿命な青色または水色の発光を観測できた。さらに、アミノ基が置換したフェニルアラニノールのR体、S体を検討したところ再結晶中にラセミ化が起こってしまい、十分な検討を行う事ができなかった。そこで環状骨格を持つ1-アミノ-2-インダノールの4つの光学異性体のうちジアステレオマーの関係にある(1R,2S)体および(1R,2R)体を検討したところ(1R,2R)体では発光量子効率が35%、寿命333ミリ秒の非常にきれいな黄色のりん光を観測することができた。 発光原理の更なる解明や発光の調色への取り組みでは、フェニル基を1-または2-ナフチル基さらに1-ピレニル基を有する1-エタノール誘導体を合成したが、長寿命りん光を観測できなかった。そこで芳香環の候補として世界で最初に長寿命りん光が報告された、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、カルバゾール、トリフェニレンの4種に立ち返って1-エタノール誘導体とし発光挙動を調査してゆきたい。単結晶X線構造解析により求めた分子構造やその構造に対して密度汎関数(DFT)法を用いて2分子間相互作用を見積もることで評価してきたが、計算方法を第一原理計算とし、結晶中での三重項エネルギーの非局在化状況について検討を加える。蛍光顕微鏡を用いた固体発光の直接観測により実験的な裏付けを得られるように試みる。 さらに研究対象物質の拡張により帰納法的に原理を考察する。
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