2021 Fiscal Year Research-status Report
開殻性を帯びた近赤外有機材料の新機軸設計指針の確立と機能開拓
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21K05215
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
前田 壮志 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90507956)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 近赤外 / 機能性色素 / ジラジカロイド / 中間開殻性 / 励起子相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
スクアレン(SQ)色素およびクロコナイン(CR)色素はポリメチン色素に分類され,これまで閉殻分子と捉えられていた.しかし,これら色素の中でも近赤外光(NIR)領域に吸収を示すものは,それらのπ共役系において二つの不対電子が一重項電子配置となった開殻一重項状態の寄与により,中間的な開殻性を示すことが指摘されている.本課題ではSQおよびCR色素の中間開殻性を実験的に明らかにすることを目指して,NIR吸収を示すことが予想される4種類のSQもしくはCR色素を選定・合成して,それらの開殻性の寄与について調査した.合成したSQ及びCR色素はNIR領域(710~950 nm)に極大吸収を示した.それらの核磁気共鳴(NMR)測定では,高温下でシグナルが消失し,温度低下に伴ってシグナルが出現した.一方,電子スピン共鳴(ESR)測定では,温度上昇に伴ってシグナルが増強した.NMRとESRで観測された特異な温度依存性から,NIR吸収SQ及びCR色素が三重項状態に熱的に励起可能な一重項ジラジカルの性質を帯びており,中間開殻性を示すことが示唆された.さらに,単結晶X線構造解析に基づく結合長の解析から,一連の分子がジラジカル性をもつことが支持された。それら色素は不対電子の存在により磁性を帯びており,温度に依存して磁化率が増大することが超電導量子干渉計による磁化率測定から示された.これら一連の検討から,これまで閉殻分子として扱われてきたSQおよびCR色素が開殻性を持つことを実験的に明らかにした.また,分子集積レベルでの検討に用いる環状発色団の合成に向けて,分子内励起子相互作用を示す2発色団型SQ色素の合成に成功し,発色団間の相互作用が光物理特性や電気化学特性に及ぼす効果を明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
可視光を吸収する分子は,可視光に対応する大きな遷移エネルギーを持つ.最高占有軌道(HOMO)と最低非占軌道(LUMO)の間で電子遷移が起こる場合を想定すると,それらのHOMOとLUMOのエネルギー準位の差は大きく,基底状態ではHOMOに2電子収容されて閉殻構造となる,一方,遷移エネルギーがゼロ,すなわちHOMOとLUMOが縮重した場合を想定すると,縮重した2つの軌道にそれぞれ1電子が収容された開殻構造のジラジカルとなる.本課題で取り扱うNIR吸収色素は,ゼロではないが極めて小さな遷移エネルギーを持つので,開殻と閉殻の中間的な状態になることが理論計算で明らかにされている.また,遷移エネルギーが低下すれば開殻性の寄与が増大することが予測されている.今年度では,当初目標としていたNIR吸収色素の中間開殻性を明らかにした.さらに,色素の遷移エネルギーと中間開殻性の間に相関があるも実証し,NIR吸収有機材料の設計指針確立に向けた重要な知見を得るに至った.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果に基づいて,NIR有機材料の設計指針の確立と機能開拓を目指して,下記項目に着手する. ・開殻分子を安定化するために適用される熱力学的及び速度論的アプローチを中間開殻性CR色素およびSQ色素に適用し,NIR吸収能と開殻性を損なうことなく,安定性を高める分子構造を探索する. ・中間開殻性CR色素およびSQ色素の非線形光学特性を評価し,応用展開に向けた基礎的知見を得る. ・中間開殻性CR色素からなる分子集積体を構築し,分子集積体に見られる相転移挙動が磁気特性に及ぼす効果を明らかにして,応用展開に向けた基礎的知見を得る.
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Causes of Carryover |
(理由)参加を予定していた学会がオンライン形式で行われたため,当初予定していた旅費が少なかったために残金が生じた。残金は大きな額ではないので、次年度予算と合算して有効利用するために余剰金とした。 (使用計画) 余剰金は物品費として令和4年度予算と合算して使用する。
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Research Products
(12 results)