2021 Fiscal Year Research-status Report
太陽光水素製造用の新しい無機アップコンバージョン材料の開発
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21K05230
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
佐俣 博章 神戸大学, 海事科学研究科, 教授 (90265554)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アップコンバージョン / 波長変換 / 無機材料 / 水素製造 / 太陽光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、太陽光と光触媒を利用した水分解による水素製造システムで使用する、可視光を紫外光に変換する新しい無機材料の開発を目的としている。種々のホスト材料に対して機能性付与のための各種イオンを添加した多元系化合物を合成し、得られた物質の結晶学的性質を評価するとともに、物質中のイオンの励起準位を利用したアップコンバージョン(UC)特性を評価することで、より優れた特性を有する新材料の設計指針を得ることを目指している。初年度の主な成果として、以下の2点が挙げられる。 酸化物Y4Al2O9をホスト材料として、イッテルビウムイオン(Yb3+)とエルビウムイオン(Er3+)を共添加した化合物に対し、ナトリウムイオン(Na+)などアルカリ金属イオンを加えた試料を合成した。これらの試料において、波長980 nmの励起光照射下で、Er3+のエネルギー準位に対応した可視光発光特性が、アルカリ金属イオンの添加によって大幅に改善することを明らかにした。 また、酸化物La2ZnTiO6 をホスト材料として、Yb3+とホルミウムイオン(Ho3+)を共添加した化合物に対し、増感剤としてネオジムイオン(Nd3+)を添加した試料を合成した。これらの試料において、波長808 nmの励起光照射下でHo3+特有のUC可視光発光を観測し、Nd3+の添加によって励起光波長域の拡張が可能になることを明らかにした。このとき、Nd3+からHo3+へのエネルギー伝達がYb3+を介して行われていることを示した。 ある種のUC蛍光体において、適切なイオンの共添加が、赤外光-可視光変換特性の大幅な改善や励起波長域の拡張を可能にすることを示したこれらの実験結果は、今後の効率的な紫外光生成を可能とする新材料開発において有益な成果であると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請した研究計画調書において、初年度は、目的に沿った適切なホスト材料の決定を目指すこととしていた。また、ホスト材料を液相中合成する際、その合成温度の低温化を一つの目標として挙げていた。 この目標に対し、初年度においては、Y2BaZnO5, Y4Al2O9, Y2SiO5, La2ZnTiO6, SrLaZnO3.5, SrBaZn2Ga2O7, Na3Al2(PO4)2F3, Na5Al(PO4)2F2など様々な多元系酸化物とリン酸塩化合物をフラックス法、水熱法、ゾルゲル法などの手法によって合成し、それらの粉末X線回折のデータを用いたRietveld法によるシミュレーション解析によって、その結晶学的性質を決定した。また、これらのホスト材料に対し、機能性付与のための各種イオンを添加した単相試料の合成にも一部成功した。特に、リン酸塩化合物をホスト材料とした試料においては、水熱法による液相中合成によって、合成温度を130℃まで低温化することに成功し、物質合成の省エネルギー化を可能とする成果が得られた。 さらに、前述の研究実績の概要で述べたとおり、Y4Al2O9やLa2ZnTiO6などいくつかの酸化物ホスト材料に対し、適切なイオンを共添加した単相試料を合成し、合成した試料の結晶学的性質と光学的性質の評価によって、UC発光時の赤外光-可視光変換特性の大幅な改善と励起波長域の拡張効果を明らかにした。これらの実験結果は、今後、効率的な紫外光生成を実現する上で有益な成果と考える。 以上の結果を受けて、初年度の研究進捗状況については「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、太陽光と光触媒を利用した水分解による水素製造システムで使用する、可視光を紫外光に波長変換する新しい無機材料の設計指針を得ることを目的としている。 材料の波長変換特性は、使用するホスト材料と、そこに添加するイオンの種類と比率、置換される結晶学的サイトに依存して大きく変化することが知られている。そこで、初年度に検討した様々な多元系酸化物とリン酸塩化合物などのホスト材料に対し、機能性を付与するための賦活剤として様々な希土類イオンや遷移金属イオンを幅広い組成範囲で共添加した試料を合成し、その結晶学的・光学的性質の評価をとおして、各系における最適組成を決定していくことを2年目(令和4年度)の中心的な課題として設定し、紫外光生成を可能とする新材料開発を進める。 その後、合成した試料のアップコンバージョン特性の評価時には、光源としてソーラーシミュレータを用いて波長 380 nm 以下の紫外光への変換効率を中心に評価する。その際、太陽光程度の弱い光強度でのアップコンバージョンの発現を期待するが、それが実現できない場合にはレンズ集光した光を光源とした評価を行い、アップコンバージョンの発現と光源の光強度の関係を明らかにすることで実用化のために必要となる利用条件を明確にする。ここで、レンズ集光による温度上昇と長期間使用を前提として、化学的に安定な無機化合物をホストとして使用している利点についても検討する。 これらによって新しい無機波長変換材料を開発するとともに、より優れた特性を有する材料の設計指針を得ることを目指すとともに、波長変換型光触媒が太陽光を利用した水素製造にとって有効な手段となり得るかどうかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
申請時の研究計画調書における初年度(令和3年度)の物品費において、実際の交付額が減額されたため、研究計画全体に支障が出ないように、初年度に購入する旨申請していた物品(ソーラーシミュレータ一式)を令和4年度に購入することとして、意図的に次年度使用を生じさせた。なお、当該物品の購入時期を一年先送りすることについては、研究全体の遂行上大きな支障は出ないと判断している。
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Research Products
(4 results)