2021 Fiscal Year Research-status Report
アンチセンス核酸-核酸分解酵素複合体を内包したANCsomeの開発と利用
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21K05307
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
小堀 哲生 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 教授 (00397605)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | RNaseH / ジアジリン / 架橋性核酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
正常細胞とがん細胞の“分子レベルの違い”を利用して効果を発揮する医薬品として、生体分子を基本骨格にもつ分子標的薬が開発されている。そのなかでも核酸を基本骨格にもつアンチセンス核酸(ASO)は、①化学合成可能であるため大量供給と製品の質の確保が容易である、②塩基配列を選定するだけで論理的に薬剤デザインが可能である、③セントラルドグマ中の翻訳過程を停止できるため、あらゆる疾患原因タンパクの生成を選択的に制御可能である、という3つの大きな特徴を持つことから、分子標的薬の有望株として日米欧の製薬会社やベンチャー企業から高い注目を集めている。しかしながら、ASOは細胞膜透過性がほとんどないため、「細胞内取り込み効率が極めて悪い」という問題と、「標的mRNAの切断に核酸分解酵素(RNaseH)の活性を必要とするため、RNaseH低発現細胞中ではほとんど活性を示さない」という2つの問題を抱えている。そこで我々は、どのような細胞においても効率的にmRNA-RNaseH-ASO三元複合体を形成させるために、共有結合で架橋されたASO-RNaseH複合体の作製ならびに、作製した複合体の活性評価を実施した。昨年度は、以下に示す3項目について検討した。①架橋性核酸の分子デザインならびに、化学合成から研究をスタートし相補鎖核酸との架橋性についての評価、②ヒトRNaseH発現プラスミドの大腸菌へのトランスフェクションとヒトRNase Hの単離精製条件の検討、③ヒトRNaseHと架橋性核酸の反応性評価。得られた知見については国内で開催された学会ならびにシンポジウムにおいて報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、当研究室では光架橋性ヌクレオシド2’-diazirine-conjugated adenosine(DA), 2’-diazirine-conjugated cytosine (DC)を開発している。DA, DCを導入したオリゴDNAと相補鎖核酸との架橋特性を評価した結果、ジアジリン残基が導入された核酸はDNAとのみ反応し、RNAとは反応しないことが明らかとなった。これらの知見は、DNA-RNA二重鎖に導入されたジアジリン部位が、DNA-RNA二重鎖に挿入されるのではなく、二重鎖の外部に位置することを示唆している。これらの知見をもとに我々は、DNA-RNA二重鎖に結合するタンパク質であるRNaseHを光架橋反応により捕捉し、相補鎖RNAを高い効率で加水分解することのできるDNA-RNaseH複合体の構築を目指して研究を行った。 DNA配列の様々な位置にジアジリン誘導体を導入したオリゴDNA(2C, 3A, 5A, 10A,11A)と、相補鎖RNAとの二重鎖を形成させた後、大腸菌由来RNase H、またはヒト由来RNase Hと光架橋反応を行い、生成したオリゴDNA-RNaseH複合体の相補鎖切断活性を評価した。その結果、3Aを用いた場合、大腸菌由来RNaseHと複合体を形成した際に、活性が約1.7倍に向上することを明らかとした。それに対して、ヒト由来RNaseHの場合では活性が約0.7倍に低下した。大腸菌由来RNaseHとヒト由来RNaseHの立体構造は非常に似ているが、アミノ酸配列は、50%の相同性しかないため、ジアジリン残基の反応性に差を生じたと考えられる。今後は、ジアジリン残基の導入位置を検討することで、より高い酵素活性をもつ複合体の探索を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの結果を受け、今年度以降は、以下に示す研究(実施項目Ⅰ、実施項目Ⅱ)を推進する予定である。 実施項目Ⅰ:共有結合で架橋されたASO-RNaseH複合体の構築 標的RNAを、選択的かつ高効率に切断するASO-RNaseH複合体を、生体分子夾雑系で構築することを目指し、光応答性残基の導入されたASOの開発を行う。昨年度までの検討結果から、糖部2’位に光応答反応を誘起するジアジリン残基を導入した光応答性ASOが、活性の高いASO-RNaseH複合体の形成に有効であることが明らかとなっているため、今年度は、①光応答性残基が導入されたASOの最適配列の探索と、②光反応性残基の反応性の向上、の二項目を実施することでASO-RNaseH複合体の構築法を確立する。 実施項目Ⅱ:Antisense-Nuclease Capsulated Exosome(ANCsome)の構築 エクソソームを特定タンパク質のデリバリーに利用する際には、エクソソーム産生細胞と受容細胞の組み合わせが鍵となることが報告されている。とくに、がん組織へ選択的に薬剤をデリバリーする際には、樹状細胞や間葉系幹細胞からえられるエクソソームが有効であることが報告されている。また、特定のタンパク質をエクソソームに内包する技術として、膜結合性タンパク(CD63,lactadherin,Lamp2c等)と特定タンパク質の融合タンパクを利用する手法が報告されている。そこで本年度は、ASO-RNaseH複合体を含有するエクソソームの開発について検討する。
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Causes of Carryover |
昨年度は、ヒトRNaseHと大腸菌RNaseHについて、架橋性核酸との反応性を検討した。当初は、業者より購入した大腸菌RNaseHを中心とした研究を行う予定であったが、架橋結果が予定より早くまとまったため、タンパク質購入費用が大幅に減り差額が生じた。差額については、今年度のエクソソーム評価費用に用いる予定である。
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Research Products
(2 results)