2022 Fiscal Year Research-status Report
Gene expression analysis of arbuscular mycorrhiza at the stage of symbiotic collapse
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21K05329
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Research Institution | Rakuno Gakuen University |
Principal Investigator |
小八重 善裕 酪農学園大学, 農食環境学群, 准教授 (60456598)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 菌根共生 / ライフサイクル |
Outline of Annual Research Achievements |
今年は、菌根の崩壊ステージの組織片(<5 mm)を効率良く得るために、時間経過とともに緑から赤へと蛍光色調が変化するpPT11-Fluorescent Timer(FT)イネ形質転換体を用いて、崩壊ステージの絞り込みと崩壊ステージマーカー遺伝子の発現解析を試みた。FTの色調変化のダイナミックレンジが広いことにより、崩壊ステージの共生細胞群、特に崩壊した樹枝状体を含む細胞を正確に判別することが可能になった。その組織切片を回収し、一組織ごとにRT-PCRを行ったところ、前年までのGFP-SCAMPを超える効率で遺伝子発現を検出できないことが判明した。菌根ライブイメージングによってその共生サイクルを調べたところ、樹枝状体の形成から崩壊までが1-2日であるのに対し、FTの赤色蛍光が持続する期間が1日以上と長く、そこに共生状態が完全に終了した細胞が多く含まれることが原因と考えられた。また操作上、崩壊ステージが単離しやすい感染単位は、ほとんどの場合その共生自体が停止あるいは何らかの原因で終了してしまった部位に限られており、共生関連遺伝子の発現が検出できないと判断した。 そこで、共生が活発な部位においても、崩壊ステージの解析を容易にする目的で、地上部を刈り取り、光合成産物の菌根への供給を制限することで、崩壊ステージの割合が増えるかを検討した。予備的試験として、レタスの地上部を刈り取り、その後の菌根の形態変化を詳細に調査した。その結果、樹枝状体やベシクルの数が減少し、感染率としても顕著に低下した。根における崩壊ステージの割合が増えたことで、断片ではなく、根全体を用いて遺伝子発現解析を行うめどがついたところが、この地上部を切断した菌根の、他の植物への感染力を調べたところ、地上部を切断していない個体に比べて、顕著に感染力が高まっていることが明らかとなり、現在論文を投稿している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目的としては菌根共生の崩壊ステージの分子メカニズムが菌根共生の発達メカニズムの理解に不可欠であると考え、崩壊ステージの「部位」に限定した解析を行う計画であった。しかし今年の結果から、これまで気付かなかった方向に軌道修正する必要が出てきたものの、新しい研究の展開が見込めることから、進捗状況としてはおおむね順調であるといえる。これまで、①当初想定した崩壊ステージの限定した遺伝子発現解析は極めて困難であること、②崩壊ステージの菌根の発達における意義について、感染単位でなく、植物の個体単位で、さらにその領域を他の植物との相互作用(菌根ネットワーク)にまで拡張して理解する必要があることが明らかとなった。この②について以下に詳しく説明する。 レタスの地上部を切断することで、その菌根の発達は著しく阻害され、共生のステージとしては崩壊の割合が高くなる(Kurosaki et al.投稿中)。しかしそのことは、共生の単なる阻害を意味するのではなく、菌糸の根の外への何らかのメカニズムによる拡大と、隣接する植物への感染促進および、その菌糸ネットワークの拡大につながるものであった。すなわち、共生の崩壊がもつ「菌根の発達」という文脈における意義とは、その崩壊ステージ内にあるのではなく、菌根全体として、あるいは宿主となる他の植物根の存在を含めた「菌根ネットワーク」として理解を進めるべきという結論に至っている。菌根の農業利用を考えた場合、作物種や、緑肥、栽培管理、輪作体系など、作物だけでなく、栽培を通じて連続的な菌根維持の視点が必要である。その中で、菌根ネットワークの菌根機能における重要性はこれまで数多くの指摘がなされているものの、共生のライフサイクルの視点を取りいれた先行研究はない。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに成果により、菌根の崩壊の意義とは、その感染単位内の限定された部位でのみ理解されるべきではなく、その崩壊の連続から成る菌根の全体に置いて理解されるべき、すなわち、菌根を持つ植物個体のライフイベントとして、さらに拡張して、菌根ネットワークを通じて拡張した、他の植物の菌根との連関から理解すべきであることが明らかとなった。生産現場では、間作、混作、カバークロップなど、複合的輪作体系における菌根ネットワークの構築と、それらの異なる性能の適正化が、有機的な栽培で土壌を肥沃に、植物を強固に育てるために不可欠であることが経験的に理解される。菌根共生の崩壊は、そこに備蓄された生体成分が放出され、菌根ネットワークを通じて他の植物に伝播され、連続的にその機能が圃場生態系で継承されていく原動力となる。2023年度の解析では、この菌根の崩壊のレベルを個体、植物間レベルにまで引き上げ、それらをつなぐ菌根ネットワークの観点から、この「崩壊」の生物学的、農学的な意義を遺伝子レベルで追及していく。
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Causes of Carryover |
研究の進捗はおおむね順調であるが、一部未履行の実験に支出する予定だった費用が残額となっている。次年度実験を実施しそこで支出する予定である
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