2022 Fiscal Year Research-status Report
近隣に活火山のない地域に分布する黒ボク土の成因解明
Project/Area Number |
21K05332
|
Research Institution | Nagasaki Institute of Applied Science |
Principal Investigator |
井上 弦 長崎総合科学大学, 総合情報学部, 准教授 (30401566)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村田 智吉 国立研究開発法人国立環境研究所, 地域環境保全領域, 主幹研究員 (50332242)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 黒ボク土 / 土壌生成 / テフラ / 炭素貯留 / 埋没腐植層 |
Outline of Annual Research Achievements |
近隣に火山がない地域に分布する黒ボク土の成因解明を目的に、(i) 近隣に火山が分布しない地域の黒ボク土、(ii) 近隣に活火山が分布しない地域の黒ボク土、(iii) 近隣に火山はあるものの黒ボク土が生成していない地域の土壌のうち,2021年度、試料の採取が終わり、一般理化学性,粒径分析,X線回折による一次鉱物分析,粘土鉱物分析を終えた各地点の試料について、植物珪酸体組成を調べ、その成果を日本ペドロジー学会で公表した(浦濵ほか, 2022)。その結果、特に(iii)について五島列島福江島京ノ岳火山の三井楽地域の場合、近隣に火山があり腐植の給源としてススキ属があったとしても、ススキ属からの有機物としての供給量が少ない場合、テフラ(火山砕屑物)の堆積量の多少に関わらず、黒ボク土は生成していないことが示唆された。また、同じ試料の細砂画分とシルト画分の石英の酸素同位体比を調べた結果、土壌層位の違いに関わらず、細砂画分石英が火成岩由来、シルト画分石英が黄砂由来である可能性を示した。この火成岩由来の石英は、京ノ岳火山がほとんどテフラを噴出していない玄武岩質の楯状火山であるため、京ノ岳火山由来ではなく、豊富に石英を含む島内の火成岩起源の石英である可能性が高い.2022年度の調査は,(i) として、四国山地の昨年とは異なる地点の黒ボク土を選定し、土壌断面調査および試料採取を行った。2021年度,調査を行った近隣の黒ボク土A層の厚さが25 cm であったのに対し、2022年度に調べた黒ボク土A層の厚さは50 cmと厚かった。このように近隣に火山がない地域であっても火山灰を主母材にするとされる黒ボク土の層厚が火山の周辺域に匹敵する黒ボク土の層厚を示した。火山周辺域に対してテフラの堆積量が決して多いとは言えない四国山地にあっても,ときに厚いA層を持つ黒ボク土が生成する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画で調査予定に挙げた (i) 近隣に火山が分布しない地域の黒ボク土、(ii) 近隣に活火山が分布しない地域の黒ボク土、(iii) 近隣に火山はあるものの黒ボク土が生成していない地域の土壌については、(i) として,四国山地久万高原町で2021、2022年度と各1地点の計2地点、(ii) として、活火山ではない第四紀火山の多良岳周辺で1地点、(iii)近隣に火山はあるものの黒ボク土が生成していない地域の土壌として、活火山である五島列島福江火山群の鬼岳に近く京ノ岳火山の麓にあって黒ボク土が生成していない三井楽地域の1地点について、土壌断面調査と試料採取を行いほぼ予定していた分析なども終えつつある。一方で,2022年度に行う予定であったスリランカでの土壌調査は、引き続きコロナ禍であったこと、スリランカ国が経済破綻によって政情不安になったこと、研究代表者が所属を異動したことなどのため、最終年度である2023年9月頃に実施することを念頭に準備中である。その代替の意味も含め、2022年度に前述の四国山地で厚い黒ボク土A層を有する調査地点を新たに選定し、土壌断面調査を終え、現在、試料の分析などを進めつつある。以上の直接的な成果について、2022年度は,日本ペドロジー学会で2つの発表を行った。さらに,論文についても少なくとも2つの論文を執筆できるだけの材料はほぼ整ったので、随時,論文執筆を進めている。なお,黒ボク土の黒い色の色変化を解明するため、当初予定していた野外実験は,2021年度想定以上に時間を要することがわかった。そこで、2022年度にその方法を変更したが、さらに条件を絞りこんだほうが時間短縮できることが示唆された。したがって、2023年度、再び条件を変え進める予定である。当初の予定とは実験、分析手法などが変わってきたものの、本研究は、おおむね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、近隣に活火山のない地域に分布する黒ボク土の成因解明を目指すことであり、当初計画した (i) 近隣に火山が分布しない地域の黒ボク土、(ii) 近隣に活火山が分布しない地域の黒ボク土、(iii) 近隣に火山はあるものの黒ボク土が生成していない地域の土壌の土壌断面調査や土壌試料の採取、分析についてはほぼ順調に進捗している。その中で、母材としてのテフラの寄与が少なくとも、腐植を保持できるアルミニウムや粘土鉱物が豊富にあれば黒ボク土は生成すること、逆に腐植を保持できるアルミニウムや粘土鉱物が豊富にあっても、有機物の給源となる草本植生による有機物の寄与が少ない場合、黒ボク土は生成しないことなど、黒ボク土の細かな成因がわかりつつある。その中で,母材や給源となる有機物の植生が明確で黒味の強い腐植層、特にその土壌が生成した期間が短く層厚も薄い埋没腐植層が活火山周辺に多く分布する。このような条件が揃った埋没腐植層は、近隣に活火山のない地域に分布する黒ボク土の成因解明を目指す上でも格好の研究材料となる。そこで,大隈半島南部で見出した埋没腐植層について、垂直方向に精細に数点の試料を採取し年代測定なども含め分析を行う。これらの成果が、黒ボク土の成因解明に示唆を与えることは明らかであり、この試料に関する研究も同時に進める。なお.黒ボク土の黒い色の色変化を解明するため、当初予定していた野外実験は、2022年度まで植物体試料(ススキとメダケの地上部・地下部、および落葉の5種類)のみ粉砕して実験を進めていたが、それでもさらに時間を要することがわかった。2023年度は添加する火山灰試料についても微粉砕し、また添加する試料は全てよく混合微粉砕し、さらにインキュベーターを用い実験を進める予定である。いずれにしても黒ボク土の成因に関する新たな知見の提供を目指す.
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、2022年度、研究計画にも挙げているスリランカ国での土壌調査へ行く予定であったが、引き続きコロナ禍であったこと、スリランカ国が経済破綻によって政情不安になったこと、研究代表者が所属を異動したことなどのため、スリランカ国での土壌調査を延期せざるを得なくなり、使用予定であった旅費と人件費・謝金などが残ったためである。次年度における繰越金の使用計画としては、最終年度の2023年9月頃にスリランカ国での土壌調査を実施することを念頭に準備中である。
|
Research Products
(3 results)