2022 Fiscal Year Research-status Report
Serial transfer法による常温性藍藻の長期高温適応進化実験
Project/Area Number |
21K05338
|
Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
兼崎 友 静岡大学, グリーン科学技術研究所, 特任助教 (70380293)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | シアノバクテリア / 高温ストレス / 適応進化 / 突然変異 / ゲノム解析 / トランスクリプトーム |
Outline of Annual Research Achievements |
シアノバクテリアは約27億年前に地球上に現れたとされており、その後の適応進化により好熱性、常温性など多様な種に分岐して現在に至っている。例えば好熱性シアノバクテリアThermosynechococcus elongatus BP-1の至適生育温度は57℃である。一方、Synechococcus elongatus PCC 7942 (以下、PCC7942)は常温性のシアノバクテリアであり、生育上限温度は43℃とされる。これ以上の高温条件ではPCC7942の細胞は分裂異常によりフィラメント状にとなり、細胞増殖は抑制される。 本研究では細胞を亜致死高温条件に曝しながら継代するSerial transfer培養法での適応進化実験により、複数の高温適応進化株のラインを確立した。定期的、あるいは生育上限温度の上昇や生理的データの変化が見られる度に全ゲノムリシーケンス解析することで突然変異した遺伝子座を同定し、また突然変異の蓄積を観測した。長期間の適応進化実験により累積した突然変異がゲノム上の特定領域に集中するかどうかを検証をしたが、現時点ではそのようなホットスポットは見られていない。一方、高温下での細胞形態の面では親株と高温適応株の違いは明瞭で、親株がフィラメント状になるような温度でも高温適応株は通常の細胞形態を保つことが明らかになった。また新たに取得した高温適応株のラインでは、これまでの株ラインで高温耐性への寄与が示唆された2遺伝子座への変異は見られなかったことから、高温耐性や高温適応に関わる突然変異には多様性があることが見えてきた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
長期間の実験室進化実験により想定以上の突然変異が累積しており、また表現型の違いがより明瞭になった。またトランスクリプトーム解析の結果から当初想定していなかった多数の遺伝子群において発現変動が観測され、現在の高温適応株の細胞内で生じている変化は既知の高温ストレス応答遺伝子群とはかなり異なることが明らかになってきた。このことは過去の知見には無い非常にユニークな細胞状態を作出できていることを示しており概ね順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
個々の生物のニッチの変遷と遺伝型・表現型の変化、及び、そこから見出される突然変異の法則性の理解は、高温ストレスへの適応機構の新規解明だけでなく、生物進化における根本原理の理解に大きく貢献をできるはずである。この点を明らかにするため、親株と高温適応株の間で至適生育温度範囲の比較解析を実施し、またタンパク質レベルでの変化を観測することで高温耐性の獲得に寄与した要因を明らかにする。Serial transfer培養は引き続き継続し、定期的にフリーズストックを作成することで進化の再現実験が可能な体制を維持する。またさらなる生理データなどの取得に力を入れ、変異遺伝子の配列については好熱性のシアノバクテリアの相同遺伝子との間で比較解析を順次進める。
|
Causes of Carryover |
変異株における遺伝子発現プロファイルを取得するため解析の外注をおこなう予定であったが、受託企業側の繁忙期に重なってしまい年度内の測定結果の納品と会計手続きに支障が出ることが分かったため、発注自体を次年度に持ち越すことにした。そのため次年度使用額が発生した。サンプルの準備そのものは順調であるため、次年度に入り次第、予定していた発注作業を進める計画である。
|