2022 Fiscal Year Research-status Report
Isolation of yeasts from Drosophila and future expansion of industrial applications
Project/Area Number |
21K05342
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
清家 泰介 大阪大学, 大学院情報科学研究科, 助教 (80760842)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 野生酵母 / ショウジョウバエ / 多様性 / 進化 / 産業利用 / 胞子形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
酵母を用いた有用物質生産においては、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeといったモデル酵母に加えて、新しい機能を持った酵母の利用も期待されている。しかし、現状では野生酵母の情報が圧倒的に不足しており、産業への展開が遅れている。そこで本研究では、ショウジョウバエが腸管の袋状の器官クロップに微生物を蓄積する性質に注目し、ハエの体内から多様な野生酵母を単離して、その中から有用な酵母を発見することを目的とする。 本年度では、昨年度に引き続き、日本国内のショウジョウバエを採集し酵母の分離を試みた。多くの研究者の協力を借りて、北海道、宮城、秋田、埼玉、東京、愛知、京都、大阪、和歌山、広島、高知、沖縄に範囲を広げ、それぞれ複数の地点からショウジョウバエを採集した。ハエをすり潰した抽出液を適宜希釈し、酵母の標準的な培地であるYPD, YEAにまいて酵母のコロニーを得た。コロニーの色や見た目から分類し、リボソームRNAのD1/D2領域の配列から種を決定したところ、最終的に32属111種の酵母の単離をすることができた。その中には新種も多数存在することが分かった。次に、一部のハエについては、体内に存在する酵母叢を把握するためにメタ26S解析を実施した。解析の結果、バナナなどの果実に誘引されたハエからは多様な酵母が分離できるのに対し、特定の花を住処にするハエからは極少数の酵母だけが存在していることが分かった。そのため、ショウジョウバエのなかにも、その繁殖場所や嗜好性によって、酵母の多様性やニッチに大きく影響する種としない種がいると考えられる。また亜熱帯の沖縄では面白い特性を示す酵母が次々と発見され、本州よりも数倍近い種類の酵母が存在することも判った。ハエから得られた酵母種にはこれまでの標準株とは異なる形質を示すものが多いことから、こうした株を利用した産業への活用が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度も引き続き、コロナウイルスの感染拡大防止のため、自らが赴いて積極的にショウジョウバエを採集することはできなかったが、研究者のご協力により、異なる地域のショウジョウバエを多数集めることができた。結果として、1年間で約2倍もの酵母種を単離することに成功した。また表現型解析の結果、ハエから単離した酵母株には胞子形成能が高いものが多く含まれていることが分かった。例えば、分裂酵母Schizosaccharomyces japonicusは複数の地点のショウジョウバエから分離できたが、いずれの株もイチゴから単離された実験室株系統とは異なり、窒素源存在下 (通常は胞子形成が抑制される条件)でも胞子形成するという表現型を示した。同様に、出芽酵母S. cerevisiaeにおいても同様の形質を示す株が単離できた。これはおそらく、ハエの腸管では消化酵素やpHの変動など酵母にとって過酷な環境にあり、頑丈な胞子壁を持つ胞子を作ることで生き延びているからだと考えられる。つまり、胞子をより多く作る個体が昆虫の体内では有利である可能性がある。このように、ショウジョウバエの体内からは当初からは予想していなかった新しい機能を持った酵母が多数存在することが期待される。ハエを分離源とした独自の酵母ライブラリーは酵母の生理や進化、産業への応用など幅広く活用できる可能性を秘めており、当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍がおさまりつつあることから、ショウジョウバエを採集するためのフィールドワークを自ら積極的に行う。バナナで誘引されるショウジョウバエに限らず、花やキノコなどを住処にするハエも採集し、ハエの種類と酵母叢の関係性を調べる。 複数の地点で採集されたハエの体内に存在する酵母のDNAゲノムを抽出し、26S rRNAのD1/D2領域に基づくメタ26S解析を行う。その結果、バナナなどの果実に誘引されたハエからは多様な酵母が分離できるが、特定の花やキノコを住処にするハエからは極少数の酵母だけが存在していることをさらに検証する。またショウジョウバエの種類によっては、酵母の多様性やニッチに大きく影響する種が存在しているようなので、ショウジョウバエの同定を試みる。ハエの同定には実体顕微鏡での外部形態の観察とミトコンドリア遺伝子の解析を通じて行う予定である。 野生酵母の表現型の解析として、アミノ酸とビタミン類の栄養要求性がなく、合成培地でも十分増殖可能な株を選抜し、炭素源の資化能や熱・pH・塩など耐性能、嫌気環境下での増殖能などをスコアで評価することで、株間のランキング付けを行う。潜在能力の高い上位の株については、合成培地での回分培養を行い、培地成分をHPLCで細胞内代謝物をGC-MS, LC-MS/MSで解析する。酵母の細胞内外の代謝物量を計測することにより、糖の消費速度や代謝物の生産速度を定量し、それぞれの酵母の培養プロファイルを取得する。未知の代謝物を生産する酵母や、特定の代謝経路が強化された酵母を見出す。またハエを分離源とする酵母株は胞子形成能が異常に高いことから、その原因遺伝子の特定を試みる。
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Research Products
(9 results)