2021 Fiscal Year Research-status Report
腸内共生細菌のべん毛が宿主免疫系の炎症誘導を免れる理由の分子レベルでの解明
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21K05369
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
梶川 揚申 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (30646972)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | べん毛 / フラジェリン / 乳酸菌 / 運動性 / TLR5 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は主にLigilactobacillus agilis由来のフラジェリンタンパク質の免疫学的活性について評価した。まずL. agilisのフラジェリン遺伝子をクローニングし、大腸菌に組換えタンパク質を産生させた。続いて、Toll-like receptor 5 (TLR5)の認識に関わると予想されるアミノ酸をコードするコドンを改変するため、変異導入用のプライマーを用いたPCRにより変異型フラジェリン遺伝子断片を作製し、同様のクローニングを行った。標的とするアミノ酸残基が3か所あったため、それぞれ1か所の変異を持つものを3通り、2か所の変異をもつものを3通り、3か所の変異を持つもの、計7種類の変異型フラジェリンをクローニングし、それぞれの精製タンパク質を調整した。これらの変異型フラジェリンのTLR5を介した炎症誘導作用を評価するため、ヒト腸管上皮細胞由来のCaco-2細胞に精製フラジェリンを添加し、産生誘導されるIL-8をELISAにより定量した。その結果、野生型のL. agilisフラジェリンでは低レベルのIL-8産生誘導であったのに対し、3か所の変異を導入したフラジェリンにおいては顕著なIL-8産生誘導の増強が見られた。1か所の変異、2か所の変異を導入したフラジェリンにおいては、それぞれ程度の差はあるものの、中程度のIL-8産生が観察された。この結果より、予測された通りの3か所のアミノ酸残基がTLR5の認識において重要であり、この違いによりL. agilisが免疫細胞からの認識を免れている可能性が示唆された。 フラジェリンの糖鎖修飾を解析するため、回収された菌体からべん毛を精製した。精製フラジェリンの分子量を質量分析によって調べたところ、アミノ酸のみから構成されるタンパク質よりも3KDa程度大きく、これが付加されている糖鎖の総量であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
L. agilisからクローニングしたフラジェリン遺伝子の変異導入および変異型フラジェリンタンパク質の精製は順調に行われ、計画にあった全ての変異型組換えタンパク質の精製が完了できた。また、免疫学的活性評価においても予測された通りの現象が観察され、当初のスケジュール通りに進んでいる。現在はこれらの変異型フラジェリン遺伝子をL. agilisへ導入するためのプラスミドベクターの構築を進めている。 糖鎖修飾の解析についてはべん毛の精製方法を検討し、安定的にフラジェリンタンパク質を取得することができている。質量分析において修飾されている糖鎖の総量が予測されたことから、今後の分析を進める上で有用な情報が得られたと考えている。酵素処理による糖鎖の切断を試みたが、市販の酵素での切断は困難であり、化学的処理による糖鎖切断が妥当であると考えられた。現在、糖タンパク質からのLC-MS分析用に糖鎖を調製するキットを購入し、分析の準備を進めている。糖鎖修飾遺伝子の欠損株を作製するためのプラスミドベクターのクローニングを進めており、一部取得できている。こちらの実験項目についてもスケジュール通りに進行している。 全体として当初の計画通りに進んでおり、特に問題は生じていない。
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Strategy for Future Research Activity |
前項に記載した通り、L. agilis変異株の作製を進めている。フラジェリンの変異株と糖鎖修飾遺伝子の欠損変異株を順次作製していく予定である。取得された順に変異株の検証を行い、その後の実験に供する。 変異型フラジェリンをもつL. agilisが取得された後、培養細胞を用いて免疫学的活性を評価する。 糖鎖修飾遺伝子欠損変異株を作製できた場合、それぞれの変異株におけるべん毛形成、運動性を確認する。その後、べん毛およびフラジェリンの精製を行う。精製されたフラジェリンタンパク質の質量分析および糖鎖の検出によって、各糖鎖修飾遺伝子の働きを推定する。各変異株から精製されたべん毛について、その安定性を調べる。熱および酸を加えた際のべん毛繊維の脱ポリマー化をNative-PAGEおよび動的光散乱法(DLS)により評価する。
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Research Products
(2 results)