2022 Fiscal Year Research-status Report
細胞内管状膜構造の形成と機能に関与するABCタンパク質の役割
Project/Area Number |
21K05381
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
永田 紅 京都大学, 農学研究科, 研究員 (70401213)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ABCタンパク質 / 細胞内管状膜構造 / ABCC6(MRP6) / ATP / 弾性線維性仮性黄色腫(PXE) |
Outline of Annual Research Achievements |
ある種の細胞は、細胞内に多数の管状膜構造(tubules)を有する。この管状膜構造は、細胞膜の陥入やrecycling endosomeの伸長などによって生じるが、細胞がなぜ自らの内部にこのような管状膜構造をもつのか、その生理的意義については不明な点が多い。本研究は、ABCタンパク質(ATP-binding cassette proteins)を手掛かりとして、細胞内管状膜構造の形成機構と生理的意義を明らかにしようとするものである。 令和4年度には、ABCC6(MRP6)に着目した実験を進めた。ABCC6は弾性線維性仮性黄色腫(PXE)の原因遺伝子産物であり、細胞外へのATP排出を促進する膜タンパク質である。HeLa細胞においてGFP融合ABCC6を発現させると細胞膜および管状膜構造に局在するが、ABCC6の本来の発現組織である肝臓由来の細胞株HepG2細胞についても検討したところ、ABCC6はHepG2細胞においても細胞膜および管状膜構造に局在することを確かめた。我々は、このABCC6-positive管状膜構造をC6-tubuleと名付けた。極性を獲得したHepG2細胞においては、ABCC6はbasolateral膜およびbasolateral側へと連続するtubuleに局在し、ABCC6は類洞側へのATP排出を促進することが示唆された。 さらに、FRETを利用したATP可視化の系を用いてC6-tubule内腔(細胞外に相当)のATP濃度を評価したところ、C6-tubule内腔のATP濃度が高くなっていることを示唆する結果を得た。我々は、C6-tubule内腔は、排出したATPの濃度を局所的に高く維持してプリン作動性シグナル伝達を調節する場となっているという仮説を立てた。本研究においてこの仮説をさらに検証することは、細胞内管状膜構造の生理的重要性を明らかにする上で意義深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【研究実績の概要】において述べたように、令和4年度には主にABCC6(MRP6)に注目した研究を行い、肝臓由来HepG2細胞においてもC6-tubuleが形成されることを確認した。また、C6-tubule内腔においてATP濃度が局所的に高くなっていることを示唆する結果を得た。細胞外へ排出されたATPはシグナル分子として機能するが、C6-tubule内腔という特殊な場へ排出されたATPは、細胞外へ拡散するまでにプリン作動性シグナル伝達に影響を及ぼすと考えられる。令和4年度の結果により、C6-tubule内腔がシグナル分子と受容体との結合の場として機能している可能性が示唆され、これは細胞内管状膜構造の生理的意義の解明に迫るものである。 また、ABCC6発現細胞と非発現細胞を用い、細胞外ATP刺激に対するカルシウム応答の評価にも着手した。 さらに、他のABCタンパク質のいくつかがtubule形成を抑制することを見出した。同じABCタンパク質ファミリーに属しながら、tubule膜上に局在するものと、tubule形成を抑制するものがあることは興味深い。現在、ABCタンパク質によるtubule形成抑制機構の解明に取りかかっている。 以上、研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
<ATP受容体の解析>細胞外へ放出されたATPは、シグナル分子としてP2X受容体(リガンド依存性イオンチャネル型受容体)やP2Y受容体(GPCR)に結合し、プリン作動性シグナルを活性化する。そこで、C6-tubule内腔においてATPがシグナル分子として機能しうるかどうかを明らかにするために、C6-tubule膜に発現しているATP受容体を同定する。 <カルシウム応答の解析>C6-tubuleをもつ細胞と持たない細胞において、細胞外ATPに対するカルシウム応答に違いがあるかどうかを解析する。 <C6-tubule形成抑制機構の解明>tubule形成を抑制する他のABCタンパク質を探索し、それらの共通点を明らかにする。
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Causes of Carryover |
令和4年度は、引き続き新型コロナウイルス感染拡大のため世界的に試薬や消耗品の発注や納期にも影響が及び、実験遂行も制限された。この為に生じた次年度使用分の助成金は、試薬や消耗品の購入、学会参加等に使用する計画である。
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