2021 Fiscal Year Research-status Report
植物内生シグナル物質としての脂肪酸ーアミノ酸縮合体の機能解析
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21K05405
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
高橋 公咲 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (30374622)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松浦 英幸 北海道大学, 農学研究院, 教授 (20344492)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 脂肪酸-アミノ酸縮合体 / N-リノレノイルグルタミン / シグナル物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
シロイヌナズナ、ナス、トマト、トウモロコシおよびダイズを80%メタノールで抽出し、固相抽出カラムで前処理し夾雑物を除去した。本前処理で得られたサンプルをUPLC-MS/MSで分析し、代表的な脂肪酸-アミノ酸縮合体であるN-リノレノイルグルタミンが植物内に存在するのか否かを検討した。その結果、分析したいずれの植物にもN-リノレノイルグルタミンが存在することが判明した。N-リノレノイルグルタミンは、幼虫の唾液中だけではなく植物にも普遍的に存在することが示唆された。しかし、その内生量は植物により大きく異なっていた。 GH3タンパク質ファミリーの中には、カルボキシル基を持つ植物ホルモンの3-インドール酢酸、ジャスモン酸およびサリチル酸とアミノ酸を縮合するタンパク質が存在する。グルタミンと3-インドール酪酸を縮合することが報告されているシロイヌナズナのGH3.15タンパク質の組換えタンパク質を大腸菌で生産した。本タンパク質のα-リノレン酸とグルタミンの縮合活性を評価した。その結果、GH3.15タンパク質はα-リノレン酸とグルタミンの縮合活性を示した。この結果は、植物にN-リノレノイルグルタミンが存在することを支持する結果であった。さらに、α-リノレン酸を一方の基質とし、GH3.15タンパク質に対する20種のアミノ酸の基質特異性を調べた。その結果、20種すべてのアミノ酸が本反応の基質となりうることが明らかとなった。それらの中でグルタミンは4番目に高い基質特異性を示すアミノ酸であった。 N-リノレノイルグルタミンのシロイヌナズナの生育に対する影響を調べたところ、本化合物は100μMの濃度でシロイヌナズナの根の伸長を抑制するとともに、根を垂直ではなく、斜めに伸長させることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
幼虫の唾液中に含まれ、植物の揮発性物質の誘導作用を示す脂肪酸-アミノ酸縮合体の一種であるN-リノレノイルグルタミンが、本研究で分析を行ったすべての植物に存在していることが明らかになった。さらに、シロイヌナズナのGH3.15タンパク質がα-リノレン酸とグルタミンを縮合しN-リノレノイルグルタミンを合成することを明らかにできた。これらの結果は、N-リノレノイルグルタミンが植物に広く存在することを示唆している。これらの研究結果から、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、N-リノレノイルグルタミンがトウモロコシをはじめとする植物の揮発性成分の生合成を誘導することが知られている。しかし、本物質がモデル植物のシロイヌナズナの揮発性成分を誘導するのか否かは明らかになっていない。そこで、本研究ではN-リノレノイルグルタミン処理によりシロイヌナズナの揮発性成分などの二次代謝産物の生合成が誘導されるのか否かを検討する予定である。 GH3.15遺伝子が欠損したシロイヌナズナの表現型は野生株と比較して大きな違いが観察されなかったという報告がある。本研究ではGH3.15遺伝子過剰発現株を作製して。その表現型を観察する。 N-リノレノイルグルタミンがシロイヌナズナの根の伸長を抑制することが明らかとなり、本物質がシロイヌナズナの生育に影響を与えることが判明した。この様なN-リノレノイルグルタミンの生理作用は、シロイヌナズナの遺伝子発現およびタンパク質発現に影響を与えることで誘導されている可能性が高い。そこで、本物質がシロイヌナズナのどの様な遺伝子およびタンパク質の発現に影響を及ぼしているのか調べる。 N-リノレノイルグルタミンが生物活性を示すためには、本物質が特定のタンパク質に結合することによりシロイヌナズナの生体内でシグナルが伝達されていることが予想される。そこで、本物質に結合するタンパク質をアフィニティーカラムクロマトグラフィーで精製し、精製されたタンパク質をLC-MS/MSなどで解析することで、N-リノレノイルグルタミンの結合タンパク質を明らかにする。
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Causes of Carryover |
コロナウィルス感染拡大の影響により、学会および研究打合せなどの出張がほとんどなかった。また、所属する研究機関の方針により、コロナウィルス感染拡大を防ぐために研究時間が制限されてしまった。これらの理由から、次年度使用額が発生した。次年度使用額は、主に消耗品の購入にあてる予定である。
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Research Products
(1 results)