2021 Fiscal Year Research-status Report
骨格筋の代謝機能および量的維持に対するイソチオシアネート化合物の作用機序解析
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21K05419
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
伊藤 芳明 岩手大学, 農学部, 准教授 (50312517)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 糖代謝 / 筋萎縮 / イソチオシアネート / ストレス応答シグナル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、シグナル応答の観点からアブラナ科野菜に含まれるイソチオシアネート化合物の骨格筋における代謝機能および量的な維持に対する作用機序を明らかにし、生体レベルでの有用性を明らかにすることを目的している。今年度は、骨格筋モデル細胞であるマウスC2C12細胞および動物モデルを用いた検討から下記のような結果を得た。 課題1 イソチオシアネート化合物の生理作用発現におけるストレス応答シグナルの役割の解析 マウス骨格筋細胞C2C12細胞を用いた解析から、本研究で対象としているイソチオシアネート化合物による糖利用促進効果が認められ、その作用は特定のシグナル分子Iの活性化を介していることが明らかとなっている。しかし、同時に活性化が見られるストレス応答シグナルの影響は不明であった。阻害剤を用いて、その影響を解析したところ、ストレス応答シグナル分子の阻害による糖取り込み活性に対する影響は認められなかった。したがって、C2C12細胞における本イソチオシアネート化合物による糖利用促進効果において、ストレス応答シグナルの活性化の関与は少ないと考えられた。 課題2 生体でのイソチオシアネート化合物の骨格筋萎縮に対する有効性評価 本イソチオシアネート化合物では細胞系での検討から、上述した糖利用促進効果に加え筋タンパク質の分解抑制効果が認められている。生体レベルでの骨格筋タンパク質分解に対する有効性を評価するために、動物を用いた本化合物の混餌食投与による検討を行った。しかし、混餌食では摂取量の低下が認められ有効性を与えられる量を摂取しているかの判断が難しいことがわかった。そこで経口投与による検討を行ったが、こちらでも安定した結果は得られにくかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究実施課題として、ストレス応答シグナルの活性化が本イソチオシアネート化合物による糖利用促進効果に及ぼす影響評価と、本化合物の生体レベルにおける骨格筋分化抑制効果を検討することにあった。 前者は、本イソチオシアネート化合物によって活性化されるストレス応答シグナルが、糖利用促進に関わることが明らかになっているシグナル分子Iの効果に干渉している可能性が考えられたため、その影響を明らかにしようとしたものである。細胞系における阻害剤を用いた検討からその可能性は少ないという結果となった。本研究とは別な細胞系で見られた結果から想定されるものは、ストレス応答シグナルの抑制はシグナル分子Iによる作用発現の増強につながる可能性があったため、それとは異なるものであった。これは組織や細胞系による特性の違いであるかもしれないと考えている。 次に後者の生体における骨格筋タンパク質分解抑制効果についてであるが、本年度用いた2つのモデルにおいては細胞系とは異なり、顕著な効果は認められなかった。このことは必ずしも本イソチオシアネート化合物が細胞などの特殊環境でのみ認められるということではないと考えている。実際、筋切片を用いたインキュベーション系においても検討を進めており、その系では筋切片の部位により効果の見えやすさは異なるものの、筋タンパク質分解抑制効果が認められることが明らかとなった。次年度以降にこの系を用いて検討を進めていく予定であり、今後につながる結果が得られていることから、進捗は概ね順調と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進方針については、各項目ごとに次のように考えている。 課題1イソチオシアネート化合物の生理作用発現におけるストレス応答シグナルの役割の解析 本化合物によるタンパク質代謝に対する効果とストレス応答シグナルの関係は不明である。そこで、マウス骨格筋由来C2C12細胞を用いて、タンパク質代謝調節活性に及ぼす影響を評価し、シグナル分子Iとの相互作用について検討する。具体的には、ストレス応答シグナル分子の活性を阻害した際の培地への3-MeHis放出速度を指標とした分解抑制活性への変化やSUnSET法によるタンパク質合成活性を指標に評価する。 課題2生体での本化合物の骨格筋萎縮に対する有効性評価 筋切片インキュベーション系(Ex vivo系)では評価できる可能性が認められた。そこで、筋切片によるex vivo評価系を用いて解析をおこなう。また、筋萎縮が誘導される他の動物モデルとして、尾部懸垂モデルを用いて骨格筋量の減少抑制に関わる本化合物の有効性を生体レベルで検証する。具体的には、次のような内容を考えている。1)Ex vivo評価系での筋特性の違いによる本化合物の応答解析:C2C12細胞は白筋系の特性をもつ細胞とされている。生体の骨格筋に対する効果がoxidativeな赤筋か、glycolyticな白筋かといった代謝特性で異なるのかは不明である。そこでヒラメ筋や長指伸筋など特性の異なる筋切片を取り出し、本化合物で刺激したときのタンパク質分解指標やシグナル分子の応答から解析する。2)尾部懸垂による骨格筋萎縮モデルを用いた評価:本化合物はもともと生体の抗酸化能を惹起することが知られている。尾部懸垂による不動化処置では、筋萎縮と共に骨格筋での酸化ストレス上昇が起こることが知られていることから、抗酸化活性誘導効果とタンパク質分解抑制効果を複合的に評価できる系として実施する。
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Research Products
(2 results)