2021 Fiscal Year Research-status Report
乳児期から離乳期の腸内環境に応じた代謝・免疫の長期持続調節の解析
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21K05455
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
大島 健司 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (90391888)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 乳タンパク質 / 乳児栄養 / 食物アレルギー / 腸内細菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
胎児期から離乳期にかけての栄養状態は、ストレス要因として初期発生に影響するだけでなく、出生後も栄養環境への適応が起こり、長期間免疫系や代謝系に影響することが知られている。乳幼児期の栄養不足または過剰は、代謝疾患などの非感染性疾患のリスクとなることが明らかとされており、乳幼児栄養による適応調節が正しく行われることで生涯の疾患リスクを減らすことが期待出来る。しかし現代日本では、他の先進諸国に比べ低体重で出生する新生児の割合が高い。 また、ライフスタイルにより母乳栄養の代わりとなる人工乳が広く利用されている。これらは将来的な非感染性疾患のリスクとなる可能性があるものの、未だ胎児期から乳幼児期における栄養環境が生体に及ぼす影響のメカニズムが完全には明らかとなっていないため、リスク評価と対策を行うことができない。乳児消化管は内因性の遺伝情報により発達・成熟することに加え、母乳に含まれる乳タンパク質も腸管組織や免疫系の発達・成熟に重要であることが示唆されているが、乳児消化管内での作用機序は不明なものも少なくない。また栄養源が母乳から通常食に切り替わる離乳期では、腸内細菌が消化管内で急激に増殖・定着し、菌体成分や代謝産物が宿主の免疫系や代謝系へと影響する。本研究では、腸内環境に応じた乳児期から離乳期にかけての生理機能調節について、母乳成分が乳児腸上皮細胞に作用する機構と、離乳期の食物で形成される腸内細菌叢による長期的な代謝制御や免疫制御について焦点を当てて解析を行う。 2021年度は、母乳成分として機能性乳タンパク質であるラクトフェリン(LF)の乳児期消化管における作用機序の解析を行なった。また離乳期の腸内細菌叢が乳幼児期の食物アレルギー症状に与える影響について解析するための実験系構築を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、母乳成分として機能性乳タンパク質であるラクトフェリン(LF)の乳児期消化管における作用機序の解析を行なった。これまでに我々は、マウスを使用したウシLF(bLF)の消化性解析で、乳児消化管内では離乳後では見られない大型のbLF断片が生成されることを明らかにしている。そこでこのLF断片の乳児消化管での動態をさらに解析することとした。乳中や組織中にはLFと類似したトランスフェリンが含まれるため、これまでに作成していた抗bLF抗血清からこの2つのタンパク質を明確に区別できる抗bLF抗体をアフィニティー精製により得た。乳児腸上皮組織でのbLFの取り込みと細胞内輸送の経時変化を調べるため、マウス乳児にbLFを経口投与し、精製抗体を用いて小腸の組織染色を行い細胞レベルでの観察を行った。その結果、乳児期腸上皮組織では抗体に反応性のあるbLFが腸上皮細胞内に取り込まれ、粘膜固有層まで経細胞輸送されていることを明らかとした。 離乳期は、細菌の栄養源となる難消化性成分が限定的な母乳から難消化性成分に富む通常食へと切り替わる時期であり、これにより乳幼児が初めて出会う腸内細菌が消化管内で急激に増殖・定着し、免疫系の活性化が誘導される。近年、腸内細菌により誘導される離乳期に限定的な長期免疫調節機構が存在することが明らかになりつつある。そこで本研究では、離乳期の腸内細菌叢が乳幼児期の食物アレルギー症状に影響するか解析することとした。離乳期の腸内細菌叢形成を撹乱するため、離乳前後の2週間抗生物質を投与し、糞中ゲノムDNA量と腸管管腔IgA量から腸内細菌定着とそれによる免疫活性化の抑制を確認した。また乳児食物アレルギーのモデル系構築のため、乳児マウスへ食物抗原の経皮感作を試みたが、抗原特異的なIgEの誘導を行うことができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
機能性乳タンパク質LFの乳児腸管組織での局在を解析し、腸上皮細胞と粘膜固有層に存在する細胞が標的細胞となることが示された。今後は研究計画に従い、LFの標的細胞での機能解析を行う予定である。またこれまではマウスにウシのLFを投与して解析を行っていたが、マウスLFについても特異抗体を用いて解析する系を立ち上げる予定である。 腸内細菌により誘導される離乳期に限定的な長期免疫調節機構の解析のため、抗生物質を使用して離乳期の腸内細菌定着を撹乱させることに成功した。しかしながら、乳児食物アレルギーのマウスモデル系を構築することが出来なかった。そこで今後は抗生物質処理による免疫系への影響について、乳児食物アレルギー以外の項目の解析を進める予定である。
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Causes of Carryover |
糞中ゲノムDNAの抽出に使用するため購入予定であったビーズ破砕機の代わりに、既存のボルテックスミキサーを使用するキットを導入し、初年度の支出額が予定よりも減ったため。
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