2022 Fiscal Year Research-status Report
食品や代謝産物由来脂質類による神経細胞抗老化および認知症予防に関する基礎的解析
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21K05465
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Research Institution | Senri Kinran University |
Principal Investigator |
長井 薫 千里金蘭大学, 生活科学部, 教授 (20340953)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 認知症予防 / レシチン / 酪酸 / ケトン体 / ミトコンドリア |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、食品由来リン脂質としてレシチンの一種であるジリノレオイルホスファチジルコリン(DLPC)、およびジリノレオイルホスファチジルエタノールアミン(DLPE)による神経細胞ミトコンドリア増強作用の分子機構の検討を行った。また、代謝産物由来脂質類については、酪酸と同様の基本炭素骨格を有するケトン体2種、β-ヒドロキシ酪酸とアセト酢酸について、酸化ストレスからの神経細胞保護機構の検討、ならびに老人斑の元であるアミロイドβの凝集抑制と細胞毒性の低下作用についての検討を行った。 レシチン類によるミトコンドリア増強作用については、DLPCではPKAおよびPKC阻害剤による抑制効果が、DLPEについてはPPARγ阻害剤による抑制効果が観察された。酪酸のHdac阻害によるNOストレスからの細胞保護効果については、酪酸よりもHdacサブタイプ特異性の高いMS275を用いて行った。今年度は、ミトコンドリア増殖因子であるPGC1αの細胞保護効果への関与について検討を行ったが、PGC1αの発現抑制によりMS275の細胞保護効果が抑制されることを見出した。これは、Hdac阻害によるNOストレスからの細胞保護効果が、ミトコンドリア増加因子であるPGC1αシグナルを介していることを示唆している。ケトン体によるNOストレスからの細胞保護効果については、抗酸化に働く転写因子であるNrf2のシグナルが関与している可能性を示唆する結果が得られた。また、ケトン体がアルツハイマー病の老人斑の元であるアミロイドβの凝集・沈着を阻害し、さらにアミロイド凝集による神経系細胞への毒性も低減することを見出した。今後はこれらのより詳細な作用機構について検討していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DLPCおよびDLPEによるミトコンドリア増加作用について、類縁化合物であるにも関わらず別シグナルを介していることを示唆する結果が得られた。DLPCについては、昨年度得られた細胞保護効果に関与するシグナルと別経路であることを示唆しており、ミトコンドリア増加作用とNOストレスからの細胞保護作用は別シグナル経路であることを示唆している。神経系細胞へのストレスからの細胞保護効果については、大きな進捗は得られなかったが、ミトコンドリア増加作用の作用機構についての知見が得られたことについては、進捗があったと考えている。 酪酸については、昨年度NOストレスに対する保護作用を示すHdacサブタイプ特異性について明らかにしたが、今年度、そのサブタイプ特異的阻害剤条件で検討を行ったところNrf2を活性化する作用を示し、阻害剤により保護作用が抑制されたことから、Nrf2シグナルの関与をより強く示唆することができた。新たなシグナルについて明らかにできたという点において進捗があったと考えている。 ケトン体2種、-ヒドロキシ酪酸とアセト酢酸については、昨年度NOストレスからの細胞保護効果があることを見出したが、今年度はその効果がNrf2シグナルを介していることを示唆する結果が得られた。さらに、脳内アミロイド沈着およびその毒性を抑制するという新機能について観察を行うことが出来た。ケトン体による、認知症予防効果につながる新機能と細胞保護効果に関して進捗があったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
DLPCについては、神経細胞保護効果と、ミトコンドリア増強作用について、さらにそれぞれの分子機構の解明をより深めてゆく方針である。細胞保護効果については、Nrf2の発現と細胞内輸送の観点に注目し、より詳細な分子機構の解析を行う。ミトコンドリア増強作用については、今年度活性化への関与が示唆されたPKA、PKC、PPARγがどの様にしてミトコンドリアを増加させるのか、特にPGC1αの発現と活性化に注目し、さらなる分子機構の解析を行う。 酪酸については、Hdac3の阻害がどの様な酸化ストレスやミトコンドリア増加に作用する遺伝子の発現に作用するか、MS275による阻害を用いてより詳細に検討を行う。特に、Nrf2の関与と上流・下流シグナルに注目して検討を行う。また、ミトコンドリア増強作用が、酸化ストレスからの細胞保護効果に直接貢献しているのか否かについても、PGC1αのsiRNAなどを用いた発現抑制などをもちいた解析により明らかにする。 ケトン体については、その酸化ストレスからの神経系細胞保護効果やミトコンドリア増強作用に対するHdac阻害作用依存性や、その他の分子機構の可能性について検討を行い、酪酸と同様のメカニズムであるのか、あるいは異なるのかについて検討を行う。さらにアミロイドβ凝集沈着作用のより詳細な検討と、化学シャペロンとしての作用を期待した小胞体ストレスからの細胞保護効果についても検討していく。
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Causes of Carryover |
まだコロナ禍であったこともあり、学会旅費などの支出が無かったことに加え、2022年度後半は2023年4月からの京都府立大学への異動の可能性が出てきたため、特に室温移動による失活の心配のある試薬類や補充の必要性のあった実験機器関連の消耗品の購入を控える必要があった。 2023年度に新任地での研究室の立ち上げによる本研究の執行のため、全任地から移動出来なかった試薬、実験装置類の拡充のための必要経費として使用予定である。
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