2023 Fiscal Year Research-status Report
線虫腸内オルガネラをモデルとした新たな栄養貯蔵様式と飢餓応答機構の解析
Project/Area Number |
21K05509
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Research Institution | Iwate Medical University |
Principal Investigator |
錦織 健児 岩手医科大学, 薬学部, 助教 (20563844)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ペプチド / C. elegans / プロテオミクス / オルガネラ |
Outline of Annual Research Achievements |
線虫の腸は、栄養の吸収だけでなく栄養分子の貯蔵や分配をも担う多機能な臓器である。その腸細胞内に見られるHEBE顆粒は幼虫後期から成虫の若い時期に豊富に形成される直径2マイクロメートル程度の顆粒状のオルガネラである。HEBE顆粒は加齢によって消失するほか、飢餓により失われるため若い時期に必要な栄養関連の機能を持っていると考えられる。本研究では、オルガネラにおけるペプチド性の栄養貯蔵と飢餓応答に関わる分子基盤を解明するため解析を行なっている。 本オルガネラに内包されるペプチド性の貯蔵実体は前年度までに解析を終えており、そのペプチドのアミノ酸組成を解析したところ、栄養貯蔵に適したアミノ酸組成を示すことがわかった。更に、これらのアミノ酸が遊離して細胞質ゾルに放出されるのであれば、mTORなどにおけるアミノ酸感知機構に介入すると予想され、本オルガネラの重要な側面を暗示している。また、内在ペプチドの末端には選択性があり、関連するプロテアーゼや輸送体の基質特異性を反映している可能性が考えられた。本オルガネラの構成タンパク質も引き続き解析中であり、小規模解析で得られた候補から、先行してGFP融合タンパク質を発現する遺伝子導入個体を作成した因子はHEBE顆粒への局在が確認された。 本オルガネラの飢餓応答に関わる因子を解析するための発現解析も進行中であり、比較対象となる絶食してもHEBE顆粒が消失応答しない変異体を選定し、比較条件を検討している。その過程で生殖腺の関与が浮き彫りになってきており、腸細胞内の貯蔵性オルガネラと生殖腺という組織を隔てた連携機構についても実験を重ねている。発現解析の結果も交えての解釈が待たれる。 以上のように本オルガネラの定常状態における分子実体は解明されつつあり、飢餓応答などの動的な変動について解析を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予定していた顆粒貯蔵因子の同定については予定していた解析を終え、局在タンパク質の解析でも複数のタンパク質を同定し、遺伝子導入個体を作成し局在の確認を進めている。現在はプロテオーム解析のスケールアップの検討中であるが、より効率的にオルガネラを単離するため、HEBE顆粒マーカーを発現する遺伝子導入個体と、体組織の大半を占める生殖腺を欠失する温度感受性変異体を掛け合せ、更に線虫個体の破砕を容易にするため細胞外マトリックスの変異により体が太くなるDpy変異体を交配し、目的の掛け合わせ体を得た。今後はこの株を用いてスケールアップする。 本オルガネラの飢餓応答に関わる因子を解析するための発現解析も進行中であり、比較対象となる絶食してもHEBE顆粒が消失応答しない変異体を選定し、比較条件を検討している。この比較対象においてどのようにHEBE顆粒の飢餓応答が抑制されているのかの解析に着手したため、思いがけず新たな知見は得られたものの、発現解析に若干の遅れが生じている。今後は検討した条件で比較解析を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、得られた掛け合わせ株を使用して効率的に目的オルガネラを単離し、局在タンパク質の同定を更に進めていく。また、野生型と本オルガネラの飢餓応答が抑制される変異体を用いた遺伝子発現解析を行い、絶食によるオルガネラの消失に先立つ遺伝子発現の変化を解析する。これらの解析で得られた因子は局在解析や変異体解析により、本オルガネラに関わる機能を明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
遺伝子発現解析に用いる変異体やその関連変異体を用いた顕微鏡観察ベースの解析を進めたため、外注予定の発現解析が当該年度内に実施できず、関連費用が未使用となった。次年度は発現解析を実施し、その後の解析を進めるために使用する。
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