2022 Fiscal Year Research-status Report
コムギのNucleolar Dominanceからみた異種ゲノム調和機構の解析
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21K05518
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
半田 裕一 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (20343957)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | NOR / Nucleolar Dominance / ゲノム特異性 / rDNA unit / 可逆的遺伝子発現 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までに、コムギの1A, 1B, 5D, 6B及び7D染色体に存在するNORそれぞれに特異的なrDNA unitサブタイプを見出すことを目的に、コムギ参照ゲノム配列RefSeqを利用して、各NOR配列から2つの新規サブタイプを含め合計6つのサブタイプを同定した。 今年度は、各サブタイプについて、q-PCRを用いて品種Chinese Spring (CS)のゲノム中の存在量比を確認した。その結果、Subtype 1はこれまでに1Bと6B染色体の主要NORの構成要素であるとされてきたが、それに加えて1A染色体にも存在している可能性が示された。Subtype 2は1Bと6B染色体で確認され、Subtype 1と同様にBゲノム特異的であると推定された。Subtype 3及び4は、それぞれ5Dおよび6Bの単一染色体特異的であることが明らかとなった。新規サブタイプであるSubtype 5は1A染色体特異的、そしてSubtype 6は5Dと7D染色体に分布しており、Dゲノム特異的であることを明らかとした。 さらに、CSと1B及び6B座乗のNORを欠失したDitelo1BL及びDitelo6BL系統を用いて各サブタイプの発現状況をqRT-PCRで確認し、Nucleolar Dominanceとの関連を調査した。CSではSubtype 1のみが発現しており、他のサブタイプは発現していなかった。Ditelo1BL及びDitelo6BLでは、Subtype 1の発現に加えてSubtype 6の発現が確認できた。これは主要NORの欠失によりDゲノム染色体のNORへのドミナンスが解除され、抑制されていたSubtype 6の発現が回復したと考えられる。回復程度にはDitelo1BLとDitelo6BLで差があり、1Bと6BのNORによるドミナンスの強さには特異性があることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の第一段階である「NOR特異的なrDNA unitサブタイプ構成の把握」は終了し、第二段階である「染色体腕や領域の欠失等に伴う、サブタイプ構成とrDNA unit発現量の変化」について研究を展開中である。成績の概要で述べたように、主要NORがDゲノム染色体のNORの発現を抑制していることを明らかにしている。現在、マイナーNORや主要NOR座乗染色体の部分欠失系統を用いた解析が進行中であり、ほぼ、計画通りに進行していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の第3段階では、「ND制御領域同定に向けたNOR周辺領域の構造解析」としているが、これは研究計画で示したように、主要NOR座乗染色体の部分欠失系統を用いた発現解析終了後に着手する予定である。 一方、コムギの成立過程で、それぞれのサブゲノム上のNORの発現がどのように変化してきたかを明らかにすることは、2倍体から6倍体へのコムギの倍数性進化を考える上で重要である。第一段階の解析で、rDNA unitサブタイプをコムギの3つのサブゲノムそれぞれに特異的に同定できたことから、倍数性進化の過程に沿って、サブゲノムNORの発現変化を追いかける準備が整った。現在、A及びDゲノムを持つ2倍種から、4倍種、6倍種と進化に沿った系統を栽培中であり、それらに加えて、新たに人為的に作成された合成6倍体種を入手できたので、6倍体の成立直後における各NORの発現状況を、現在の安定した6媒体と比較解析することが可能になった。この点にもフォーカスを当てて、研究を推進していく。
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Causes of Carryover |
物品費は当初計画かそれを上回る支出があったが、コロナ禍の影響による出張制限が残っていたことによる旅費使用等の支出が少なかったことにより、結果として次年度使用額が生じた。次年度については、実験自体が順調に進んでおり、出張制限等も解除されたことから、当初計画通りの使用となるものと見込んでいる。
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