2021 Fiscal Year Research-status Report
Does the improvement of source ability by applying silicic acid fertilizer enhance the tolerance to high-temperature on ripening stage?
Project/Area Number |
21K05541
|
Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
氏家 和広 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 准教授 (60465276)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | イネ / 白未熟粒 / 玄米外観品質 / ケイ酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、ケイ酸の施用方法の違いがイネのソース能や白未熟粒発生率に及ぼす影響を調査した。 令和2年度以前の実験では、ケイ酸質肥料を土壌表面へ散布し、施用量や施用時期を変えることでその影響を解析してきた。結果として、効果が表れやすい施用量や施用時期についてはある程度決定することに成功したが、ソース能の向上効果は安定的でなかった。その原因は、イネ体内におけるケイ酸輸送の特性が関連すると考えた。すなわち、出穂期以降のソース能を向上させるためには、ケイ酸を出穂2~1週間前程度に施用する必要があるが、その時期においてイネは吸収したケイ酸を穂へ優先して輸送してしまう。このため、重要ソースな器官である止葉等の上位葉へは、十分なケイ酸が行き渡らず、ケイ酸施用の効果も現れにくかったと考えた。以上のことから、葉面散布用のケイ酸質肥料を利用してケイ酸を葉から直接吸収させれば、ソース能の向上効果が安定して得られるという仮説を立て、これを検証した。 ケイ酸を葉面散布した区では、対照区と比較して出穂期以降の葉面積が拡大した。これによりソース能が向上し、乾物生産量が増加した。4年度以降も繰り返し実験を行い、検証を継続する必要は残るものの、ケイ酸の葉面散布によりソース能を明確に向上させられることが明らかとなった。しかしながら、ソース能が向上したにも関わらず、整粒率は改善しなかった。また、葉面散布区では下位葉の枯れ上がりが遅れる様子が観察された。これらのことから、ケイ酸葉面散布による葉面積の拡大は、下位葉における老化の遅れが原因であると推測された。下位葉の老化遅延は、葉面積の拡大を通じて群落の光合成量を増加させる効果を持つ反面、穂への窒素転流が制限されることにも繋がる。ケイ酸の葉面散布によってソース能が向上したにも関わらず整粒率が増加しなかった理由は、穂における窒素不足が発生したためであると考えた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の想定では、2カ年をかけてソース能を安定的に向上させる方法を確立する予定であった。次年度も同様の栽培実験を行い、ケイ酸施用の効果を確認する必要はあるが、既に安定的にソース能を向上させる方法はほぼ確立できたと考えている。この点では当初の計画以上の進展が得られたと言える。 一方で、トランスクリプトーム解析については、サンプリング時期の選定等に時間を要しており、予定よりも進捗状況が遅れてしまった。この点を鑑み、全体的には概ね順調に進展していると評価している。 成果の公表に関しては十分に実施できていない。ただし、これは当初の見込み通りであり、栽培実験の都合上、実験開始初年度に当たる令和3年度は学会の開催時期までにデータを揃えることができないためである。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究計画を立案した段階では、ケイ酸施用により安定的にソース能を向上させることができれば、白未熟粒発生を軽減させ、整粒率を向上できるものと考えていた。しかし令和3年度の結果より、ケイ酸によるソース能向上は穂における窒素不足を引き起こしてしまい、単にケイ酸を施用するだけでは玄米外観品質を向上できないことが示唆された。玄米中の窒素 (タンパク質) 不足が白未熟粒発生を助長することは、これまでにも多数の報告があり、いわゆる「実肥え」と呼ばれる後期の窒素追肥を重点的に行うことで軽減できることが知られている。 そこで令和4年度はケイ酸葉面散布と窒素追肥の強化を組み合わせることで、ソース能を向上させるだけでなく、白未熟粒の発生を軽減し、玄米外観品質を向上させることを目指す。 また、ケイ酸質肥料を土壌へ散布することで、茎部導管からの溢泌液量が増加することが観察された。これはケイ酸施用により根の活性が高まったことを示している。ただし、この効果はケイ酸を葉面散布した際には確認できなかったため、根で吸収されたケイ酸が直接的に作用したと考えられた。根の活性は、吸水能、吸肥能と深く関連するため、間接的にイネのソース能に寄与している。ケイ酸質肥料の土壌散布によって、安定的とは言えないながらもソース能が向上する傾向をみせたことは、この根におけるケイ酸の効果が作用した結果であったかもしれない。そこで、葉面と根の両者からケイ酸が供給されれば、より強くソース能向上効果が得られるのではないかと考え、ケイ酸の葉面散布と土壌施用を組み合わせる栽培実験についても実施する。 トランスクリプトーム解析については、令和3年度の予備実験により調査すべき適切なタイミングを絞り込むことができた。令和4年度は本格的に解析を開始し、ケイ酸がソース能を向上させる機構の全体像把握に努める。
|
Causes of Carryover |
当初計画では、令和3年度からトランスクリプトーム解析を実施する予定であったが、実際には予備実験を行うのみに留まった。このため、解析に必要な経費を使用せず、次年度に繰り越すこととなった。 令和4年度はトランスクリプトーム解析を当初計画よりも大規模に実施する予定であり、それに伴って支出額が多くなる見込みである。繰り越し分は主にその補填に充てる。
|