2022 Fiscal Year Research-status Report
環境に適応した巧妙な栄養繁殖:ヤムイモの塊茎形成・肥大機構の統合的理解と応用
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21K05542
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
濱岡 範光 九州大学, 熱帯農学研究センター, 准教授 (40778669)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石橋 勇志 九州大学, 農学研究院, 准教授 (50611571)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ヤムイモ / ダイジョ / 新芋肥大 / 早生性 / 植物ホルモン / ムカゴ形成 / シンクソースバランス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、地上(ムカゴ)と地下(新芋)に塊茎を形成し栄養繁殖するヤムイモのユニークな繁殖様式に着目し、これをダイジョ(Dioscorea alata L.)の生産性向上の鍵として栽培・育種に応用すべく、作物生理学的アプローチから塊茎形成・肥大機構の解明を図る。本年度は、突然変異体の育成を進めるとともに、それら系統の中から長日条件下で塊茎肥大する早生性の候補系統(12系統)を見出した。現在、ターゲット遺伝子の発現解析等により候補系統の遺伝子欠損について調査を進めている。また、これまでに得られたダイジョの塊茎形成・肥大機構およびフィールドレベルでの収量性向上に関する成果を取りまとめ、学術論文として発表した。 1) ムカゴ形成: 土壌過湿に応答してシンク・ソースバランスが変化し、ムカゴの形成を促進することが明らかとなった。また、本特性には、地下部での過湿感知をシグナルとして、地上部のアブシジン酸レベルが高まること、並びに新芋への転流抑制により地上部の同化産物蓄積が増加して、葉腋の糖濃度が高まることが関与すると考えられた。 2) 新芋肥大: 短日処理後20-30日の間で塊茎肥大が開始することが明らかになった。FT-like遺伝子の発現パターンから、長日下ではDaFT1が塊茎肥大を抑制すること、並びに短日下ではDaFT2が塊茎の肥大成長を促進することが示唆された。暗期の赤色光により塊茎肥大が抑制されたことから、ダイジョの塊茎肥大には光周性があり、赤色光感知による短日応答にはFTを介した制御メカニズムが関与すると考えられた。 3) 収量性: 無支柱栽培における収量性向上の鍵形質を明らかにするため、2ヵ年の圃場試験を実施した。その結果、塊茎の球形度が高い品種ほど無支柱条件での蔓数が多く、これが旺盛な地上部生育を介して高収量に寄与することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた研究計画を実施することができ、本年度の目標をおおむね満たす知見が得られた。実績概要で記した通り、長日条件下で塊茎肥大する早生候補系統を選抜することができたため、今後はゲノム解析と系統育成を進める。また、本研究で得られた成果を学術論文として3報発表できた点については、当初の計画を上回ることができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
新芋肥大機構の解明に向けて、DaFT1-GFP融合タンパク質をDaFT1遺伝子のプロモーターに組み込んだ遺伝子組換えダイジョを作出し、葉から新芋へのDaFT1タンパク質の移動性を評価する。また、早生性の付与が収量性に及ぼす影響を明らかにするため、早生候補系統の増殖を図り、ポットあるいは圃場での栽培試験を実施する。一方、ムカゴ形成については、アブシジン酸が副芽のシンク化に促進的に働くことを見出したため、その他の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン)との相互関係について検討を進める。
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