2022 Fiscal Year Research-status Report
低温脱馴化過程で起こるブドウの冬芽の過冷却能力低下機構の解明
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21K05555
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Research Institution | Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine |
Principal Investigator |
春日 純 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (40451421)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 卓 北海道大学, 農学研究院, 教授 (30196836)
高橋 大輔 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (20784961)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ブドウ / 耐寒性 / 冬芽 / 過冷却 / 組織構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
氷点下温度において、ブドウの幹や枝に存在する大部分の水は凍結するのに対し、冬芽内部の原基組織は細胞を過冷却させることで凍結を回避する。本研究はブドウの耐寒性機構の解明を目的としており、2022年度は、高耐寒性品種‘山幸’を用いて、枝に存在する氷から原基組織への凍結の拡大を防ぐバリアとして働く冬芽の基部組織の構造特性について調べた。 山幸の冬芽は厳冬期に-30℃程度まで過冷却できる能力を獲得するが、このような低温まで冬芽の基部組織が凍結の拡大を防ぐバリアとして働くためには、そこにある微細孔の最大径が数ナノメートル未満である必要がある。2021年度に行った市販の蛍光色素を用いた実験において、我々は厳冬期の山幸の冬芽の基部組織に存在する微細孔の直径は3nm未満であることを示す結果を得たが、本年度は、様々な分子サイズを持つポリエチレングリコール(PEG)の混合溶液と質量分析イメージングを用いた新たな手法を用いて、その微細孔サイズは2~3nmであると推測した。 春に冬芽の原基組織の伸長のために、冬芽の基部を横断する道管が形成されると、それが凍結の侵入口になることで冬芽基部の凍結の拡大を防ぐバリア機能は完全に失われ、ブドウの冬芽は過冷却をできなくなると予想される。しかし、これまでに圃場で発芽を始めた冬芽が弱いながらも過冷却能力を持つといういくつかの報告がなされてきた。この機構は全くの未知であったが、我々は、蛍光色素を用いた実験によって、道管が通水を開始した直後の冬芽では、十数ナノメートル程度の直径を持つデキストランは枝から冬芽内部に染み込んでいかないことを確認した。これは、枝から冬芽内に続く通水経路の内部に、直径が十数ナノメートルよりも大きい穴を持たない何らかの構造物が存在し、それが凍結の拡大を防ぐ能力を持つことを示唆する。我々は、この構造物の特定を目指した実験を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで研究に用いていた市販の蛍光色素を結合したデキストランは種類が限られており、冬芽の基部組織に存在する微細孔サイズの推測は大まかにしか行うことができなかった。しかし、2022年度から始めたPEG溶液とMALDI-TOF MSイメージングを用いた手法により、その直径をより精密に調べることができるようになった。 蛍光色素を用いた実験によって、枝と冬芽の間に道管が形成された後に凍結の拡大を防ぐと思われる通水経路内の構造物の存在を確認し、その大まかな位置も特定することができた。これは、申請時には想定していなかった成果であった。道管を介した通水が始まり、発芽が起こる前後は、ブドウの冬芽が凍霜害を受けるリスクが特に高い時期であり、この時期の冬芽の耐寒性の決定要因の解明は、農学的な意義が大きい。 2022年度は、脱馴化を開始した植物が低温を感じて再び耐寒性を上昇させる「再馴化」に関する研究も開始した。植物の再馴化能力は、脱馴化の進行に伴って失われることが知られているが、我々は、山幸の冬芽が圃場で再馴化能力を失う時期を特定するとともに、人工気象器を用いた試験によって厳冬期に採取した冬芽が再馴化能力を失う温度処理条件を見出すこともできた。これまでに得られた結果をもとに、今後、ブドウの冬芽が脱馴化過程で再馴化能力を失う機構についても研究を進めることができる。 ブドウの耐寒性への冬芽の基部組織に沈着するペクチンの関与を調べるため、免疫染色によるペクチンの観察を開始した。これまでに、厳冬期に採取した冬芽とそれを人工気象器で脱馴化させた冬芽の基部について、非エステル化ペクチンとメチルエステル化ペクチンの分布を調べた。現在、耐寒性が十分に上昇していない秋に採取した冬芽と十分に低温馴化した厳冬期に採取した冬芽について、ペクチンの観察を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
冬芽の基部組織に存在する微小孔サイズの評価について、蛍光色素を用いるものと質量分析イメージングを用いるものの2つの手法を利用できるようになった。蛍光色素を用いる方法は容易ではあるが、微小孔サイズを詳細に調べることができない。一方、質量分析イメージングでは、より詳細な評価ができるが、分析に時間がかかる。これら2つの方法を組み合わせ、効率的に実験を進めることで、2023年度は、脱馴化過程のみではなく、低温馴化過程で冬芽の基部組織で起こる微小孔サイズの変化の評価を行う。 シュート原基内の溶液の浸透圧の評価が滞っているが、2023年度には低温馴化・脱馴化・再馴化過程での変化を調べる。また、主な浸透圧調節物質である可溶性糖の組成分析も行い、可溶性糖を含めた浸透圧調節物質の蓄積による冬芽の耐寒性や再馴化能力への関与を明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響で参加した学会の多くがオンライン開催となり、予定した旅費がかからなかった。最終年度の2023年度には、これまで得られた成果を発表するために、学会等での発表や論文投稿を増やす予定であり、旅費や英文校正料・論文掲載料などの論文投稿にかかる費用を増額する。
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