2021 Fiscal Year Research-status Report
施設栽培における14C/12C比を利用したCO2施用効率の解明
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21K05573
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
鈴木 克己 静岡大学, 農学部, 教授 (70370575)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 二酸化炭素 / 同位体 / 光合成 / 施設園芸 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物は二酸化炭素(CO2)を光合成で取り込むことによって,体内に炭素(C)を固定する.施設内で化石燃料由来のCO2施用が行われているが,施用したCO2が植物にどれくらい固定されているのか解明されていない.本研究では,同位体Cを利用して化石燃料由来CO2がどの程度植物体内に固定されたか(CO2施用効率=化石燃料由来C/化石燃料由来C+外気由来C)を調査した. 温室(外気CO2),とグロースチャンバー(GC,化石燃料由来CO2を施用)を用いて,全期間温室,1日温室3日GC,2日温室2日GC,3日間温室1日GC,全期間GCの5処理区を設け,トマトのCO2施用効率を測定したところ、草丈,新鮮重量,乾燥重量に有意差は見られなかった.化石燃料由来C率は、全期間温室が2%,1日温室3日GCが46%,2日温室2日GCが29%,3日温室1日GCが8%,全期間GCが56%,使用した炭酸ガスの化石燃料由来のCO2は100%であり,およそ4割は外気のCO2が混在してしまうことが分かった. 9/14~11/22に温室で栽培し,その後11/16~11/22にGCで栽培した.展開が終了した第1葉,成長中の第6葉,6日間で新しく出現した第10葉,6日間で新しく出現した第7葉付近の側枝のCO2施用効率を測定した.実験1の結果より,GC内で吸収したCの割合を求めた完全展開葉である第1葉のCO2施用効率は34.4%,成長中の第6葉の施用効率については2箇所測定し,先端の小葉が48.5%,葉の中央部が71.0%,6日間で新しく出現した第10葉が81.7%,6日間で新しく出現した第7葉付近の側枝が82.2%だった.新しく出現した第10葉や側枝のCO2施用効率が8割程度だったことから,残り2割は温室栽培時に貯蔵されたデンプンなどが分解され,転流されたものと考えられた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
加速器質量分析計により、化石燃料由来Cと外気由来Cの判別が可能であることが明らかとなった.それにより,温室(外気CO2),とグロースチャンバー(化石燃料由来CO2を施用)を用いて実験を行ったところ,グロースチャンバーに入れた期間の割合と化石燃料由来CO2の利用割合には高い正の相関がみられることから,この方法により温室内でのCO2施用効率の測定が可能であることが明らかとなった.また,1週間程度入れることで、トレーサー的な実験にも応用できることが示された.温室内でサンプリングした試料は現在,分析中であり,このデータが揃えば,当初目的としていた施設園芸におけるCO2施用効率を明らかにすることが達成されると思われる.研究は順調に進んでおり,これまでの結果について学会発表を行い,論文にまとめるとともに,今後,局所施用などの技術開発に応用する予定である. なお,温室内でCO2施用をする期間は冬季の1~2月であるため,トマトの茎葉等のサンプリングを2022年1月~2月に行い,その後,乾燥試料とし,加速器質量分析計による測定依頼をした.試料数も多かったため,現時点(2022年4月25日)で測定結果がでておらず,それにかかわる測定代金の支払いが未納のため,初年度の予算はほぼ使用せず,次年度に繰り越しをしている.次年度早々には測定結果が出る予定であり,多くの予算が執行される予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
2021年12月~2022年2月に実際にCO2施用を行いトマトを栽培した温室(土耕栽培として太田農園、養液栽培としてAOI-PARC の実験温室)のトマトをサンプリングした分析結果が出る予定である。両温室の環境データより、光合成量を推定し、CO2施用期間と無施用期間の割合を算出し、実際に得られたデータとの関係性について明らかする。そのことより、各温室におけるCO2施用効率や換気率が明らかになると期待できる。さらに本方法が、施設園芸におけるCO2利用の基礎的な方法となることを示すことができる。その結果をまとめ、秋季園芸学会で発表を行うとともに、論文作成に取り掛かる。2021年度のグロースチャンバーの結果より、CO2施用後に出現した新葉も、CO2施用前の古葉で固定されたCが転流した可能性が示されたため、1週間毎に外からグロースチャンバーへ移動する処理を行い、古葉のCが新葉にどの程度転流しているのかを明らかにする予定である。トレーサー実験として、本方法が使用できるか、トマトだけでなく、イチゴなど他の作物についても調査する予定である。生産現場においてCO2施用効率を高める試験として、夏季および冬季に、温室内でCO2局所施用システムを設置し、トマトを低段密植栽培で栽培する予定である。加速器質量分析計により、化石燃料由来Cを分析し、局所施用によるCO2施用効率を調査する。以上、今後も順調に研究は推進できると思われる。
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Causes of Carryover |
本年度、本研究について、分析に関わる費用、サンプリングに関わる旅費、そのほか研究に関わる費用は研究室の一般運営費から主に支出した。多くを次年度に繰り越し使用するのは、本年度サンプリングを行い分析を依頼した結果がまだでておらず、それに関わる費用が時間の関係で本年度支払うことができないためである。サンプリング件数が多いため、次年度予算のみでは対応が難しく、本年度の予算の大部分を次年度へ繰り越すことで対応する予定である。次年度は分析や栽培試験に多くの予算を執行する予定であり、計画通りの予算執行ができると思われる。
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