2021 Fiscal Year Research-status Report
Coloring promotion of black skin grapes cultivated with bagging using trans-2-hexenal
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21K05580
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
塩崎 修志 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (10235492)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 着色 / 温暖化 / アントシアニン / trans-2-hexenal |
Outline of Annual Research Achievements |
ブドウ有袋栽培において袋内で気体として作用するtrans-2-hexenal(t2H)による‘巨峰’果実の着色促進技術の開発を目的に本研究を行なった。t2Hの処理時期,処理濃度,処理期間については,樹上(袋内処理)ならびに切取った果粒(密閉容器処理)を用いて検討した。t2Hのキサンタンガム包含体調製時に使用するエタノール濃度の影響も調査した。包含材ならびに袋の材質の比較検討は,発芽と実生成長を抑制するt2Hの効果を利用したヤエナリの生物検定(密閉容器中での処理種子の発芽試験)により評価した。 令和3年度は着果不良であったため,処理濃度ならびに処理時期については切取った果粒でのみ試験した。その結果,包含体に含まれるエタノール濃度ならびにt2Hの処理濃度の一貫した結果は得られなかった。処理時期については,成熟開始1週前処理では,t2Hは果皮着色には影響せず,果皮に障害が見られた。成熟開始期ならびに成熟1週後の処理では,果皮着色が促進される傾向がみられた。樹上試験では,成熟開始期の果房へ袋内において単一濃度(1μl / 袋)で処理したところ,キサンタンガム包含体を投入し収穫期まで放置した場合,着色が促進され,収穫期のアントシアニン含量が有意に高かった。 キサンタンガム以外の包含材としてシリカゲルの一種であるサイリシアによる保持性と放出性をヤエナリの生物検定で調査したところ,サイリシアはt2Hを効率良く包含し,包含体を乾燥させ密閉すれば保存できることを確認した。放出性は,処理直前に加える溶媒の量によりある程度コントロールできる可能性を見出した。 密閉容器中,袋用の紙で密封したスチール容器にt2H包含体を投入し,ヤエナリの生物検定により,上袋のt2H保持性を検討した。その結果,袋用の紙はある程度t2Hを保持でき,ビニールと二重にすることでその保持性は高まることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年5月の開花期の天候不順により,巨峰果実の着果が悪く,研究に適した果房ならびに房あたりの果粒数が不足し,かつ,成熟開始のタイミングがやや乱れ,予定した試験に制限があった。このことから,詳細な分析等に従事する雇用を見合わせ,また,統計的に信頼性の高いデータが不足したため学会発表等を実施できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
trans-2-hexenal(t2H)の包含材にはキサンタンガムよりシリカゲルの一種であるサイリシアの方が取扱性が良く,放出性も制御が容易であると判断されたことから,‘巨峰’果実を用いた試験を実施するまでの春季において,ヤエナリの生物検定ならびにガスクロマトグラフィーにより,サイリシア 包含体からの放出性の評価を行い,最適な包含体の調製方法を確立する。これまで,サイリシア 包含体の調製にはアセトンとエタノールを用いたが,さらに,安価で食品添加物や香料として利用されるイソプロパノールやn-ヘキサノールを用いた場合の調製効率(担持割合)ならびに有機溶媒による副作用(ヤエナリ実生の生育抑制)を評価することにより,t2Hの包含ならびに処理に最適な溶媒を決定する。この結果をもとに,サイリシア 包含体を用いて,樹上あるいは切り取った果粒を用いて,果皮着色に最適な処理濃度ならびに成熟開始後の最適な処理時期の検討を行う。果皮着色において一定の効果が見られた場合,t2Hの着色促進における生理的な機作について基礎的情報を得るために,アントシアニンの組成分析を行う。また,予備的な試験として,t2Hが果皮着色において重要な植物ホルモンであるアブシシン酸の果皮中含量に及ぼす影響の調査を開始する。ブドウの試験後になるが,t2Hサイリシア 包含体を用いて,袋の材質(紙厚,窓用セロファン付き,防水加工)によるt2Hの保持性を比較する。得られた結果をもとに,最終年度においてブドウの着色試験を行う。
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Causes of Carryover |
2021年度の巨峰果実の着果が不良であり,試験試料の量が限られていたこと,ならびに,アントシアニン総量について有意な結果が非常に限られていたため,当初予定していたアントシアニンの定性分析に充当する人件費を執行することがなかった。2022年度においては,樹上での処理の補助ならびにアントシアニン分析従事者として人件費を執行する予定である。また,旅費は学会参加費を予定していたが,新型コロナ感染症により出張が不可能となり,執行できなかった。2022年度には学会参加のための出張旅費として使用する。
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