2021 Fiscal Year Research-status Report
見えないものを見る:揮発物質を利用して複数の病原体感染を検知する新技術の基盤構築
Project/Area Number |
21K05593
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
木下 奈都子 筑波大学, 生命環境系, 助教 (80716879)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 病原菌 / 植物 |
Outline of Annual Research Achievements |
地球温暖化に起因する急激な気候変動の影響を受けて、食料の安定的確保が重要な課題である。日本の食糧自給率は先進諸国中で最低レベルであり、その対策の一つとして潜在収量の25%に及ぶ病害虫被害の改善が挙げられる。温暖化により病害虫被害は拡大しており、その対策は食料安全保障上の重要テーマである。 本課題では、圃場における生態系に着目した。圃場では実験室の人工的な環境とは異なり、多数の病害虫と環境要因の変化が複雑に相互作用する環境である。このような環境の中で栽培されるダイズは世界の食用油とタンパク質の約半分の原料になっており、人類の生存に欠かせない作物である。実際、病害虫の防除はダイズの栽培で最も大切な作業の一つである。病気のみではなく、圃場では夏にチョウ目幼虫による葉の被害も顕著になる。 本年度はまず、ストレス応答を分子レベルで検知できる実験系を構築した。この実験系を用いて、単一の病原菌による感染を検知することができた。複数の病原菌による感染を同時に検出するためには、さらに高感度化することで複数の病菌による感染を効率よく検知することができると考えられる。 また、病害虫の被害を早期に発見することによって、農薬の使用量が1/10になった例も報告されている。このことから、省資源農業としてのポテンシャルが高いことをもの語っている。本技術が自動かつ大規模に行われることで、省労力化に貢献できる可能性もある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
圃場の生態系という複雑な環境下において、複数の病原菌による感染を早期に検出する技術の開発を最終目的として、本年度は病害虫ストレス検知の技術開発をおこなった。その中でも、まず、細菌による感染の検知を行った。圃場生態系の中で早期の段階で細菌病を検出するには特異性が重要となり、そのためには分子レベルでの検出が有利だと考えられた。モデルとして、大豆における細菌病を用いた。実験室の個別に栽培され、健全な植物と純粋培養した病原菌を感染させたところ、健全な植物と比べて優位に差が出る結果となった。今年度は、一品種のみでの確認をおこなった。これらの実験室レベルでの結果から、少なくとも単一の細菌病に対する感染を、早期に分子レベルで検知することができた。この技術は、この技術は、イネやトウモロコシだけでなく希少絶滅種などにも利用できるものである。次年度は、同時に感染される病原体の代表として、ウイルス病の検知を試みる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、細菌病への感染と同時に起こるウイルス感染を高感度かつ得意的に検出できる技術を高感度なものへ発展させることも念頭に起き、ウイルス感染を高感度に検出する技術を開発する。複数の病気を同時に検知するにあたって、感度の強さは非常に重要であり、汎用可能な技術の開発への鍵を握ると考えられる。 これら一連の技術開発に関しては、遺伝子組み換え技術が必要なことから、生態系への遺伝子組み換え植物の飛散が懸念される。この点に関しては、例えば、花粉の形成を阻害する遺伝子の変異を利用するなどで改善することができる。モデル植物をはじめとして様々な植物でこのような変異に関する知見は豊富に蓄積がある。変異を導入する技術としては、ゲノム編集で使用することができる。
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Causes of Carryover |
国際学会がキャンセルになり、分子生物学の消耗品に関しては、スケールダウンが可能な手法、その他の消耗品に関しても繰り返し使用できる方法が見つかったため。次年度の国際学会へ参加するための費用に充当する。
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