2022 Fiscal Year Research-status Report
見えないものを見る:揮発物質を利用して複数の病原体感染を検知する新技術の基盤構築
Project/Area Number |
21K05593
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
木下 奈都子 筑波大学, 生命環境系, 助教 (80716879)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | VOC |
Outline of Annual Research Achievements |
地球温暖化によって、病害虫の発生の時期がこれまでよりも早くなるほか、今まで気温が低いため発生しなかった地域で被害が出るという言う例が多数報告されるようになっている。特に、病害虫が北上したことによってこれまで被害が発生していなかったところで発生している場合、経験だけに頼る病害虫のモニタリングは非常に難しい。そこで、何らかの自動センサによるデジタル情報でモニタリングすることが、新しい害虫をいち早く検知できるための有効な手段の一つだと考えられる。加えて、圃場では常に多数の微生物が混在しているため、新しい病原菌が進入して繁殖する過程で早期に発見するには相当な経験と知恵が必要になってくる。このため、デジタルデータが欠かせない。このような技術は、他の分野からの転職者などにもやさしい技術である。本年度は、昨年度に引き続いて病原微生物に感染した作物の検出法に関して追試を行った。まずは、異なる品種における検出である。ダイズでは、病気になりやすい特殊な品種とより汎用性が高い品種がある。どちらの品種でも検出できることがわかった。これらの実験から、幅広い品種で応用が可能であることを示唆できた。これに加えて定量的な解析を行うための実験システムにも着手した。精度の高いモニタリングやモデル化による被害の拡大予測のためには的確な定量法が欠かせない。このほか、多数の共生に関与する微生物から病原菌の部類に属する微生物が存在する実際の圃場の中で特異的にターゲットとする病原菌を検出する鍵となるのは明るさである。このことから、感度を上げるための予備実験も継続して行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に引き続き、多数の作物と共生する微生物と病原菌となる微生物が存在する中で、目的とする病原菌に感染した作物を検出するための技術開発を行った。目的とする病原菌による感染を検出するためには、その病原菌感染に関する特異性が非常に重要になる。ここで、我々はまず、更なるシグナル強度のための試みを続けた。その理由は特異性を付与するために検出法を修正・修飾しても特異的に検出できると予想されるからである。このため、これまでに構築した検出システムを基盤として更に高感度で検出できる手法の開発を行った。これに加えて、定量法もアップグレードすることでシームレスな検出技術の開発に貢献できる知見を得た。更に、この新しい手法では、将来の被害拡大予測技術の開発に備えた知見の蓄積であると考えている。細菌は葉の表面にある開口部、つまり気孔や害虫や物理的な被害による傷害ストレスを被った部位から侵入するため、害虫被害の検出も行った。その結果、害虫ストレスと病原菌による感染を特異的に検出することができた。このことから、害虫被害の検出とその拡大の予測並びに病原菌による感染の検出とその被害拡大のモデルを独立して行うことができることを示唆することができた。これらのことから、独立したモデルで被害拡大モデルを建てられる可能性を示すことができたため、よりラバストな被害拡大モデルの構築に貢献できる知見が得られたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、最終的な目的である複数の病原菌感染を同時に検出する方向で解析を進める。より具体的には、異なる病原菌感染、ウイルス感染に着目して実験を行う。可能であれば、異なる作物種を用いて検出することを予定している。作物種の候補としては、遺伝的な距離で比較的短い種と遺伝的距離が離れているところに位置する種の利用を考えている。これにより、本技術がどれくらい汎用性があるのかの予備的知見を得ることができる。更には、病原菌側を同時に可視化及び計測化及び定量化することで、将来の被害拡大予測を構築するための知見を得る方向で実験を進めて行く予定である。病原菌側の病原菌・ウイルスに加えて、揮発性有機化合物を放散する側と受け取る側の両植物のストレスを可視化及び定量化を行うことで、検出精度の検証と被害の拡散予測構築に向けた知見を蓄積することを試みる。これら全てを同時に可視化するためには、それぞれに特異的な可視化プローブを用いることが必要である。より精度を上げるためには時間的な解像度を上げるために撮影時間を短縮することから着手することを念頭においている。その上で、感染が広がる速度を下げることで時間的な解像度を上げることを考えている。最後には、実際に圃場で起こりうる感染の拡大速度を実験室内で再現した場合の検出感度と特異性にも言及する。これらの解析から、それぞれの作物の被害の拡大速度及びその二次元的な広がりを予測できるモデルを構築できる手法も包括して解析を進める。
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Causes of Carryover |
国際学会がオンラインとのハイブリッドで行われたため、次年度での使用額が生じることになった。次年度の使用計画としては、国際学会に出席するとともに、査読の際の追加実験および学術雑誌への掲載の際に生ずる掲載費やオープンアクセス費への使用も視野に入れている。論文には直接関係しない実験に関しては、植物や動物の栽培や飼育に関する資材や、顕微鏡周辺の部品(例えばフィルターなど)が必要になる可能性がある。また、ルーチンな形質転換植物の管理や動物飼育を担う非常勤研究員の雇用費としても支出が見込まれる。
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