2021 Fiscal Year Research-status Report
New regulatory mechanism on plant immunity via CEP peptide
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21K05597
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
豊田 和弘 岡山大学, 環境生命科学学域, 教授 (50294442)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 植物免疫 / 免疫抑制 / CEP ペプチド / 内生サプレッサー / 感染誘導 |
Outline of Annual Research Achievements |
「内生サプレッサー」については、健全な植物体の葉から免疫抑制作用をもつ物質として初めて分離されて以来、その構造は長い間不明であった。研究代表者らは 2019 年、シロイヌナズナの健全葉を材料として構造解析に挑み、その1つが窒素獲得のためのシグナル伝達に関連する CEP ペプチドであることを明らかにした。本課題ではこれを受けて、成熟型 CEP5 ペプチドを化学合成し、これの免疫抑制活性について調べた。その結果、CEP5 ペプチドはシロイヌナズナ由来の精製標品と同様に flg22 誘導性の免疫応答(ROS 生成、MAPK 活性化やカロース合成など)を抑制し、処理した植物体は不適応型病原菌に感受性となった。また、CEP5 の免疫抑制作用については、flg22 以外の微生物関連分子パターン(キチンオリゴ糖、elf18 ペプチド、ペプチドグリカン、リポ多糖)や傷害関連分子パターン(Pep1 ペプチド)でも認められたことから、CEP5 はそれぞれの受容体の下流にある共通因子に作用して免疫を抑制しているものと考えられた。事実、CEP5 遺伝子は通常低レベルで発現しているが、flg22 などの微生物関連分子パターンの処理や不適応型病原菌の接種に応答して発現が誘導されることが明らかになった。今後は CEP ペプチドを介した植物免疫の制御機構の全容とその生物学的意義について実証し、植物の「成長」と「防御」という表裏一体の現象の根幹に迫りたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
合成 CEP5 ペプチドはシロイヌナズナから精製された内生サプレッサー標品と同じ活性を示し、前処理された植物体には不適応型病原菌による感染が成立する。今回、シロイヌナズナ Col-0 に対して Pseudomonas syringae pv. tomato DC3000(DC3000)とその病原性欠損株(Δhrc)、エフェクター遺伝子 avrRpm1 発現株(avrRpm1)ならびに不適応型菌として P. syringae pv. tabaci 6605(6605)をそれぞれ接種し、全 CEP 遺伝子(CEP1~15)の応答について解析した。その結果、強い免疫応答を誘導する Δhrc,avrRpm1 ならびに 6605 の接種葉では共通して CEP5 を含むグループⅠの CEP1、CEP3、CEP8 および CEP9 が誘導されたが、病原性(親和性)菌の接種ではそれらの応答は認められなかった。以上の結果は、CEP ペプチドが過剰な免疫反応を防ぎ、成長と防御のトレードオフを微調整するとする仮説を支持している。一方、CEP 遺伝子群の活性化におけるサリチル酸の関与について調べる目的で、これらのサリチル酸に対する応答について調べた。その結果、非親和性および不適応型菌の接種で誘導される CEP 遺伝子のほとんどがサリチル酸の処理で誘導されたが、サリチル酸非感受性変異体 npr1 ではその誘導は完全に消失した。これらに結果は、CEP 遺伝子の発現調節にサリチル酸が関与していることを示唆している。つまり、強い免疫応答を引き起こす非親和性菌や不適応型菌を接種した植物では、一時的にサリチル酸の内生量が増加し、これが引き金となって特定の CEP 遺伝子が誘導されているものと推測された。
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Strategy for Future Research Activity |
PTI 指標遺伝子を使った予備実験から、CEP5 ペプチドは Ca 流入に伴う CDPK に依存した経路を強く抑制していることを示す結果が得られている。そこで 22 年度は、Ca イメージングが可能なイエローカメレオン導入個体の種子に対して EMS 変異を誘導し、96 穴プレートで生育させた M2 世代の選別から CEP5 に非感受性の変異体を取得して原因遺伝子を特定する。一方で、全 CEP 遺伝子のプロモーター配列から、サリチル酸応答に関わる既知のシス配列や誘導遺伝子に共通してみられる配列の有無について調査する。有力な配列が見られれば、ネイティブまたは改変プロモーター下の CEP5Pro::CEP5-HA(エフェクター遺伝子)、MAMP 応答性プロモーター下のルシフェラーゼ遺伝子 ProMAMP::Luc-FLAG(レポーター遺伝子)および 35S::GUS(リファレンス遺伝子)を cep5 由来の葉肉細胞(プロトプラスト)へ共導入し、MAMP 存在・非存在下でルシフェラーゼ活性を定量する。これにより、CEP 遺伝子が新たに誘導され、その役割が免疫の抑制(収束)にあるとすれば、免疫の「タイミング」「強度」「持続時間」がどのように影響を受けるか定量的に調べることが可能になる。
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