2023 Fiscal Year Research-status Report
ガ類性フェロモン生合成酵素の同定―残された課題への挑戦ー
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21K05623
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
石川 幸男 摂南大学, 農学部, 教授 (60125987)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤井 毅 摂南大学, 農学部, 講師 (30730626)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 性フェロモン / 生合成酵素 / アワノメイガ / アメリカシロヒトリ |
Outline of Annual Research Achievements |
ガ類の性フェロモンは,その化学構造の違いから大きくType-I・Type-IIに分類される.異なるタイプの性フェロモンは原材料も生合成経路も大きく異なることが知られている.本研究では,Type-I・Type-IIを使用するガの代表としてそれぞれアワノメイガOstrinia furnacalisとアメリカシロヒトリHyphantria cuneaを用い,性フェロモンの生合成に関わる酵素のうち,未だに未同定のものの解明を目指して研究を行っている.2023年度の研究実績の概要は以下の通りである. 1.前年度に取得したアセチル基転移酵素(AT)の候補配列について,大腸菌でタンパク質を発現させるためのプラスミドの構築を行った.定法に基づいて大腸菌で発現させたところ,封入体が形成され不溶化してしまった.各種の可溶化法を試みたが,活性のある状態での可溶化はできなかった. 2.ATの活性の評価系を確立するため,アワノメイガのATと同じ働きをするが,配列の相同性は全くない酵母のAT(ScAT)をクローニングし,大腸菌用の発現プラスミドに組み込んだ. 3.前年度にATとアメリカシロヒトリの脂肪酸脱カルボニル化酵素CYP4GのdsRNAを用いたRNA干渉(RNAi)を試みたが,効果は認められなかった.アワノメイガやアメリカシロヒトリなどの鱗翅目昆虫では,RNAi実験がうまくいかない事例が多く報告されているが,この原因の一つとして鱗翅目昆虫に特異的なdsRNA分解酵素(dsRNAse)の存在が知られている.このdsRNAseをターゲットとしたRNAi(RNAi of dsRNAase)を本来のターゲットを対象としたRNAiと同時に行うことで効果が安定する可能性が示されている.そこで,まず,アワノメイガのdsRNAse候補のクローニングを行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
前年度,RNAi法によるアワノメイガのアセチル基転移酵素候補遺伝子(AT)のノックダウンを試みたが成功しなかったため,事前の計画に則り,AT候補タンパク質を大腸菌で異所的に発現させることを試みたが,大腸菌で発現させたATは封入体を形成し不溶化してしまった.各種の可溶化法を試みたが,今のところ,活性のある状態での可溶化には成功していない.Crispr-Cas9などを利用したATのノックアウトについても検討したが,アワノメイガは近親交配に弱く,この方法も大きな困難が予想された.研究に残された時間も少なくなってきたことから,鱗翅目昆虫においてRNAi法がうまくいかない大きな原因とされているdsRNA分解酵素をRNAiで不活化するRNAi of dsRNAase実験に注力することとした.アワノメイガからdsRNA分解酵素の候補を4種クローニングした.dsRNAseのdsRNA (dsdsRNAse)の大量生成まで進行したので,現在はdsdsRNAseとターゲット遺伝子のdsRNAをコインジェクションして,その効果を調査している段階である.アメリカシロヒトリについてもdsRNAseの候補を3種クローニングし,RNAi of RNAiの準備を進めている.
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Strategy for Future Research Activity |
これまで,ガ類の性フェロモン生合成に関与する酵素の実体を明らかにすべく,RNA-seq解析を駆使して候補遺伝子の配列を得ることに成功している.しかし,得られた配列が実際に性フェロモンの生合成に関与していることを証明するためには,異所的にタンパク質を発現させてその機能をみるか,遺伝子の発現をノックダウン(ノックアウト)して性フェロモンの生成量が減ることを示す必要がある.本研究では,酵素の異所的発現,RNA干渉(RNAi)による遺伝子発現のノックダウンの両方を試みているが,どちらの方法も困難に直面している.計画していた研究実施期間内には期待された成果を得ることが困難となった.このため,研究実施期間を1年間延長し,新たな試みを実施することとした. 時間も限られていることから,延長した1年間では,成功する可能性がより高い,RNAi法による遺伝子発現のノックダウンに集中する.鱗翅目昆虫においてRNAiが期待通りに働かない原因の最重要メカニズムとしてdsRNA分解酵素(dsRNAse)の存在が注目されていることから,来年度は,このdsRNA酵素をターゲットとしたRNAiを本来のターゲットに対するRNAiと同時に実施し,ターゲット遺伝子の発現のノックダウンが実現できるかを試みる.幸い,本研究の対象であるアメリカシロヒトリのdsRNAseおよびアワノメイガの近縁種ヨーロッパアワノメイガOstrinia nubilalisのdsRNAseについては報告があるので,これを参考にすることで効率よく研究を進められると考えている.
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Causes of Carryover |
研究が想定外の困難に直面したため、当初購入を予定していた試薬類の購入を見送った。このため次年度使用額が生じている。研究実施期間を1年間延長し,RNAi法による遺伝子発現のノックダウンを試みる.次年度ではRNAi法の実施に必要な試薬を中心に購入する予定である.
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