2022 Fiscal Year Research-status Report
熱水音に注目した、熱水性甲殻類タイワンホウキガニの幼生分散機構の解明
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21K05638
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
三宅 裕志 北里大学, 海洋生命科学部, 教授 (00373465)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | タイワンホウキガニ / 幼生 / ゾエア / メガロパ / 生活史 |
Outline of Annual Research Achievements |
タイワンホウキガニは、潜水船を用いることなく、熱水性甲殻類がどのように幼生分散し、個体群を維持するかを理解する最適な生物である。本研究では、タイワンホウキガニがどのようにして、熱水域に加入するのかを、熱水環境音に注目して明らかにすることを目的としている。音響トラップを作製するため、筒型のハウジングに振動スピーカー、バッテリー、MP3プレーヤーをいれた水中スピーカーを作製した。式根島御釜湾にて、水中スピーカーのテストを行い、生息地の熱水音とスピーカーの音を水中マイクを用いて記録し、水中スピーカーが機能していることを確認した。さらに、現地では、最も火山性ガスの噴気の活発な場所において調査したところ、水深が浅いにもかかわらず、多数のタイワンホウキガニの生息が確認できた。また、台湾の亀山島にゆき、ダイビングによる生息地の観察をおこなった。室内での飼育実験では、タイワンホウキガニの抱卵期間や脱皮間隔や脱皮による成長量に関して、様々なサイズの個体のデータが得られ、成長の推定が出来るようなり、タイワンホウキガニは着底から放仔までに7~8か月を要すると推定され、幼生期間は4~7か月であると推定された。この成果は甲殻類学会で報告した。 また採集したタイワンホウキガニを長期飼育し、繁殖させた。その際に、浮遊生物飼育用の水槽を作製した。幼生を個別に飼育することで、これまで不明であった第2ゾエアからメガロパまで成長させることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
水中スピーカの作製に関して、昨年度は市販の水中スピーカーを使用すると、電源確保の問題があったが、モバイルバッテリー、小型アンプ、ICプレーヤーをいれたハウジングに振動スピーカーを入れることで解決できた。 室内での飼育実験に関して、タイワンホウキガニの脱皮間隔や脱皮による成長量、抱卵期間に関して、様々なサイズの個体のデータが得られ、成長の推定が出来るようなった。さらに、幼生飼育に関しては、昨年度までは、生残率が悪く、孵化後1週間程度で全滅し、成長による形態変化を見る事が出来ない状況であった。本年度は、第2ゾエアからメガロパまでの成長を明らかにすることを優先にして、飼育観察したところ、数少ないがメガロパまで飼育することが出来るようになった。 聞き取り調査により、伊豆半島及び薩摩半島において、海底から熱水が湧いている場所が明らかになってきた。 台湾の亀山島は、台湾の中央研究院の臨海実験所からすぐにアクセスでき、タイワンホウキガニの個体群の大きさが国内の生息地とは桁違いで、現場で幼生も採集されていることから、幼生のトラップ実験には都合が良い場所である。今年度は台湾の中央研究院の研究者とも密に連絡をとり、亀山島でのダイビングによる観察を行うことができ、2023年度の現地調査に向けての準備が整った。 タイワンホウキガニの分布については、コロナ禍で練習船による遠方への航海が制限されてしまっていたため、南西諸島エリアではまだ実施されていない状況である
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Strategy for Future Research Activity |
幼生飼育に関しては、まだ数多くの幼生を得ることが出来ていないため、浮遊幼生専用の水槽を作製し、効率の良い飼育方法を開発してゆく。幼生の成長に関しては、メガロパまでの成長を見たが、一定の温度のデータであるため、今後は生息域や繁殖時期の水温を考慮した成長の違いを明らかにする。また第2ゾエアからメガロパまでの成長については早急に論文化する。 作製した水中スピーカをいれた音響トラップを作製してゆき、国内および台湾の亀山島において、使用できるようにしたい。 また、環境DNA用のプライマーを改良し、ホウキガニの分布を明らかにし、アクセスしやすいホウキガニの生息地の発見を目指す。また、コロナ感染症が5類に移行されることから、今後南西諸島海域へ調査航海に出ることのできる可能性が出てきたため、これについても実施でき次第、実行に移したい。 台湾の亀山島での調査においては、生物の輸送ルートを確保したのち、幼生の採集しやすい夏から秋にかけて調査を行う。 幼生の音への反応についての実験は、飼育による幼生確保のほか、生息地において、ライトトラップ設置することでホウキガニの幼生を確保して、実験に用いる。
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Causes of Carryover |
台湾へ本格的な調査に行く予定であったが、実行しなかった。これは、コロナ禍であったことと音響トラップが完成してから、実際に使用した方が効率が良いということから、そのようになった。また、音響トラップの作製に時間がかかっている状態であるからである。さらに、大学と台湾の中央研究院とのMOUの締結することとなり、その締結を待った方が、生物の採集、実験、輸送など研究に有利であったため、先延ばしすることとした。また、環境DNAを用いた生息地調査も実施していない。 次年度は、台湾の中央研究院とのMOUもあり、音響トラップの完成を目指し、台湾での調査を行う。また、国内での環境DNAによる生息地調査、今年度の成果を論文として出すための費用とする。
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Research Products
(1 results)