2021 Fiscal Year Research-status Report
都市緑地の植生を環境DNAメタバーコーディング法で把握するための基礎的研究
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21K05657
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
中山 祐一郎 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 教授 (50322368)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
保田 謙太郎 秋田県立大学, 生物資源科学部, 准教授 (00549032)
尾形 善之 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (90446542)
阿久井 康平 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 助教 (90779315)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 都市緑地 / 雑草 / DNAバーコーディング / 学名 |
Outline of Annual Research Achievements |
雑草DNAデータベースの構築: 日本雑草学会の「雑草名リスト」掲載種についてYListなど7つの学名リストの正名の異同を調べたところ、掲載種349種のうち165種がいずれかのリストにおいて異なる正名をもつことが明らかになった。掲載種160種についてGenbankでの登録状況を調べたところ、複数のバーコード領域の完全配列と部分配列のいずれかが登録されている種は104~140種であった。Genbankの登録配列からQueryを作成し、DNAバーコーディングを実行することで、出力された結果が登録配列の種と一致するかどうかを検証したところ、BOLDシステムとJBIFシステムにおいて一致したのは、検証に用いた都市緑地に生育する植物12科16属63種の134配列のうちそれぞれ44配列と19配列であった。不一致の原因として、学名について異名や誤った学名で登録された塩基配列があること、登録配列の塩基配列がQueryよりも短いためにスコアに基づく順位では上位になりにくいということ、バーコード領域に種間を識別できる変異がないことが挙げられた。 また、都市緑地等の低地に生育し、亜高山帯・高山帯に侵入して外来植物となっている種について、DNAバーコーディングが可能であるかどうかを検証した。スズメノカタビラ(広義)については、複数のバーコード領域の変異を組み合わせることで種内変異を検出できることが示唆された。また、ツメクサ類では、塩基配列変異によってツメクサとハマツメクサとが区別できることが示唆された。ミミナグサ類については、ミミナグサ(広義)とオランダミミナグサは塩基配列変異によって区別できるが、ミミナグサと変種の関係にあるオオミミナグサを識別することはできなかった。 さらに、都市緑地に生育する絶滅危惧種(アゼオトギリ等)・侵略的外来種(外来タンポポ種群等)の分布および生育調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、都市緑地の土壌試料からその場に存在する植物の種組成を推定する環境DNAメタバーコーディング法の基礎技術を確立することであり、そのために1)雑草DNAデータベースを構築することにより、自生する植物をDNAバーコーディング法で簡便かつ正確に同定できるようにして、次に、2)土壌試料からのDNA抽出方法とバーコード領域のPCR増幅条件などを検討して、環境DNAメタバーコーディング法の実験プロトコルを確立することで、地下器官や埋土種子として維持されている潜在植生を含めた都市緑地の植生を把握できるようにする。2021年度では1)のⅰ)登録種数の充実を計画した(2年計画の1年目)。日本雑草学会の雑草名リストに掲載されている全890種を対象に、陸上植物のバーコード領域について、①国際塩基配列データベースINSDでの登録状況を調査し、②登録されていない種については供試材料を収集して塩基配列を従来型のシーケンサーで解読し、INSDに登録するという目標に対して、①では学名については約39 %、塩基配列については約19 %が、それぞれ終了したことになる。この割合は2年計画の1年目としてはおおむね順調であるが、一方で②については、実施できた種が4種(群)とやや遅れている。これには、コロナ禍による出張や大学での学生の研究活動の制限が影響している。一方で、主に2年目以降に実施する計画であった1)のⅱ)同定精度の向上について、バーコード領域に近縁種間での差異がないか、種内の変異が存在するために、INSDに登録されている種でもDNAバーコーディング法で同定できない種のあることが明らかになり、また一部の種では種内変異を検出できるDNA領域の存在が示唆されるなどの進展が見られた。したがって、総合的に「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
)のⅰ):未調査種に関しては同様の調査を継続し、未登録種を収集して塩基配列を解読する。 ⅱ)同定精度の向上:バーコード領域に近縁種間での差異がないか、種内の変異が存在するために、INSDに登録されている種でもDNAバーコーディング法で同定できない可能性がある。そこで、分子系統学的研究の進んでいるアブラナ属などの分類群を対象に、③公開されているゲノム情報を参照して近縁種を識別できるバーコード領域を新規に開発するとともに、④日本全国をいくつかの地域に区分して、地域ごとに都市緑地を選定して雑草種を採集し、それらのバーコード領域の塩基配列を解読してINSDに登録することで、DNAバーコーディング法に用いる雑草DNAデータを充実させる。また、INSDには同じ種が異なる学名で登録されている場合があり、誤同定の原因になるので、⑤INSDのデータを自動取得して異名を含む雑草名リストと照合するプログラムを開発して、雑草のDNAバーコーディング用のデータベースを構築する。
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Causes of Carryover |
差引額の多くは、塩基配列解析委託費(10万円)である。実際にはこの解析は実施したが、研究分担者が自身の研究材料とともに解析をして、その費用を自身の研究機関における教員研究費で支払うことができたため、余剰が生じた。あとはデータ解析補助のための謝金の残額である。これについては、卒業研究として実施したため謝金が不要になったことによる。次年度使用額は、原則的に前年度と同じ経費に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)