2021 Fiscal Year Research-status Report
「官報」記事の精査を中心とした長期データの整備による近代日本の森林被害実態の解明
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21K05677
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Research Institution | Forest Research and Management Organization |
Principal Investigator |
高畑 義啓 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (60353752)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 森林保護 / 森林被害 / 病虫害 / 山火事 / 科学技術史 |
Outline of Annual Research Achievements |
山林局が「官報」上で森林被害の報告を行っていた期間を把握し、調査期間を決定するため、明治期の「官報」の調査を行った。調査は適当な年数ごとに、官報の全ページを閲覧し、森林被害に関する報告を抽出することで行った。官報上での山林局による森林被害の報告は官報の刊行が始まった1883(明治16)年に始まり、10年間ほどは多数の報告があったが、明治後期(1890年代後半)には僅かとなった。しかしその後も山火事などについて散発的に報告があり、また山林局ではなく警察から山火事が報告される場合もあり、全ての号を精査しないと森林被害に関する報告が終了した時期を明らかにできないことが分かった。 また、日本の近代における森林被害の全体的な変化を把握するため、1883年7-12月期と1887年6-12月期との間で、森林被害の報告を比較検討した。1883年は58件、1887年は29件と、森林被害の報告件数は半減していた。主な被害のうち、虫害が34件から7件と大きく減少した一方で、火災の報告件数には変化がなかった。虫害は明治中期まで多く発生していたが、その後大きく減少するのに対して、火災は恒常的に被害が発生していた可能性がある。 この期間の被害の大部分は虫害と火災で、病害や獣害と明記された報告はなかった。多様な樹種が虫害を受けていたが、マツ類が目立っていた。害虫の種は不明だがチョウ目幼虫と思われる「ケムシ」の類が多かった。虫害の防除は火による誘引・焼殺や人手での捕殺のみだった。火災の原因は不明とするものが多いが、記録されている原因は全て人為によるものだった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、明治期の官報を適当な年間隔ごとに調査して官報の調査年度を決定すること、その調査から近代の森林被害実態の概要を把握することを計画していた。 調査の結果、明治期に山林局によって森林被害が官報上に頻繁に報告された期間はおおむね明らかになった。しかし山林局以外の政府機関からの報告も含めると、その期間の後も森林被害が散発的に報告されており、近代日本の森林被害の実態を詳細に把握するには、この期間の全ての官報を精査する必要があることが分かった。近代の森林被害実態の概要として、明治期の森林被害は山火事と虫害が主で、後になるほど被害件数が少なくなる傾向があり、その主な要因は虫害の減少だと推測された。 このように、官報上に森林被害報告が完全に行われなくなった年が不明という意味では調査年度の決定が完全ではなかったものの、本年度の計画は概ね達成できたと言える。以上のことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究が現在までおおむね順調に進展していることから、当初の計画通りに研究を推進する予定である。すなわち、2022-2023年度において、国会図書館デジタルコレクションとして公開されている官報のうち、2021年度に調査しなかった年の調査を行う、また山林局の発行していたに「山林公報」「山林彙報」、さらに明治から昭和戦前期までの学会誌や民間の雑誌などの調査を行い、近代日本の森林被害全体の実態を把握する。 その森林被害のデータセットを統合し、各種データとの関係の解析を行い、被害状況の推移の詳細や、気象要因、社会要因などが森林被害データに与える影響を検討する。
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Causes of Carryover |
理由の一つは、新型コロナウイルス感染症の流行により、予定していた出張を行うことができなかったため、旅費の支出がなかったことである。もう一つの理由は、同感染症のまん延防止措置への対応や、同ウイルスの感染者の発生による保育園の休園のため、研究補助を行っている非常勤職員が出勤できない期間が生じ、その分の人件費の支出がなかったことである。 次年度は、課題申請時に予定していた使用計画から、同感染症の流行状況にもよるが、必要に応じて森林総合研究所(つくば)や国会図書館等の図書館への出張回数を増やし、また当年度に処理できなかった分の画像のテキスト化などのため、非常勤職員の雇用日数を増やすことを予定している。
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