2022 Fiscal Year Research-status Report
「官報」記事の精査を中心とした長期データの整備による近代日本の森林被害実態の解明
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21K05677
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Research Institution | Forest Research and Management Organization |
Principal Investigator |
高畑 義啓 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (60353752)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 森林保護 / 森林被害 / 病虫害 / 山火事 / 科学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度、全ての号を確認しなければ「官報」上の森林被害の報告が終了した時期を特定できないことが明らかになった。そのため明治期全年次の「官報」記事について、順次森林被害の記述に関する調査を行った(未完)。現在まで398件の森林被害の記述を確認した(クワ、チャ、果樹や街路樹等を含む)。昨年度の結果と同様、火災が232件と最も多く、次いで虫害が106件、その他は主に気象害であり、獣害の記述も5件確認された。当時の被害の種類は、マツ枯れが未だ発生していない以外は現代とさほど変わらないと思われる。ただし病害についてはナラ枯れ以外の記述が確認されておらず、現代との比較は難しい。防除法としては、害虫の火による誘引・焼殺や人力での捕殺、シカの狩猟などが記録されていた。法制度等の被害対応としては、1896(明治29)年の「農業害虫駆除法」に先駆け、1886年頃に各府県で制定された「田圃蟲害豫防規則」に対応すべき害虫として「桑茶等ヲ害スルケムシ」が挙げられているのが最も古いものであった。また当時も害虫の買い上げが行われた事例が複数あった。 さらに「官報」以外の刊行物の調査方針を決定するため、各大林区署(営林局)の刊行物等を調査した。大正期以降は山林局から種々の定期刊行物が発行されているが、発行頻度が月刊であるものが多く記事数が膨大なため、本課題の実施期間中に調査を完了することは不可能と判断した。そのため、「官報」以外の調査対象としては、山林局が発行した「山林公報」と「山林彙報」、記事の検索が可能な「大日本山林会報告」と「大日本山林会報」を対象にするのが妥当であると判断した。「山林公報」と「山林彙報」については一部調査を進めた。現在までに確認したところでは、これらの媒体では「官報」のように個別の事例が随時掲載されることはなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、前年度に行ったサンプリング調査の対象としなかった年の官報記事の調査を行い、明治期の全年次の調査を進めることを計画していた(次年度に完了予定)。また「山林公報」「山林彙報」などの調査も行い、「官報」による結果と統合することも計画していた(次年度に完了予定)。 調査の結果、昨年は確認されなかった獣害など、種々の森林被害の記述を確認でき、法制度的な対応など、当時の被害対策の一端についても知ることができた。また「官報」以外の定期刊行物の調査方針についても決定することができた。 以上のように、本年度の計画は概ね達成できたと言える。以上のことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究が現在までおおむね順調に進展していることから、当初の計画通りに研究を推進する予定である。すなわち、国会図書館デジタルコレクションとして公開されている明治期の官報のうち、これまで調査しなかった号の調査を行う。また山林局の発行していた「山林公報」「山林彙報」、さらに「大日本山林会報告」「大日本山林会報」の調査を行う。なお、本年度まで調査対象としていたクワ、チャ、果樹については、林木でないことや対象記事数が膨大になることが予想されたことから、次年度は調査対象から外し、既調査分も解析の対象としないこととする。 前記の調査から得られた個別の森林被害の報告をデータセットとして統合し、近代日本の森林被害全体の実態を把握する。さらに各種社会・自然環境データとの関係の解析を行い、社会や自然環境の要因が森林被害に与える影響について明らかにする。
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Causes of Carryover |
理由の一つは、新型コロナウイルス感染症の流行の影響を鑑みたこと、また研究代表者が令和4年10月に異動となり、出張の時間を設定する余裕がなくなったことから予定していた出張を行うことができず、結果として旅費の支出がなかったためである。 もう一つの理由は、前任地で非常勤職員が退職し、異動までに新規の採用ができなかったこと、現在の任地でも新たに非常勤職員の採用活動を行わざるを得なかったため予定よりも人件費の支出が少なくなったためである。 次年度は、「山林公報」「山林彙報」等の調査のため、必要に応じて森林総合研究所(つくば)や国会図書館等の図書館への出張を行い、また「山林公報」等の画像のテキスト化などのため、非常勤職員の雇用を増やすことを予定している。
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