2022 Fiscal Year Research-status Report
スギはどう高温を記憶するのかー高温順化分子基盤の解明ー
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21K05680
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Research Institution | Forest Research and Management Organization |
Principal Investigator |
伊原 徳子 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (40353594)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | スギ / 高温順化 / レトロトランスポゾン / エピジェネティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
スギ苗木を用い、自然光条件下で一部の個体に36℃(3時間・2日間)の処理を行い、25℃で1日おいたのち38℃で3時間処理した。針葉のRNA-Seqデータをもとに、先行研究で高温順化に関わることが示唆されていた遺伝子群の発現量の変化を調べたところ、36℃処理により一部の熱ショックタンパク質と転写因子が誘導されていたが、38℃処理では全ての個体において高温誘導性遺伝子の転写がより強く誘導され、各遺伝子の発現量に順化処理の有無による有意な違いが見られなかった。光学系IIの障害の程度を調べたFv/Fm測定の結果からは、個体によるばらつきはあるが36℃処理により光学系IIの障害が抑制されていると考えられることから、観察された高温順化には他の遺伝子が関与していると考え、その候補を絞った。 また、実生の育成温度の違いが高温によるダメージやレトロトランスポゾンの活性化に及ぼす影響を調べるため、実生を25、30℃で発芽、育成したのち、45℃で10日間処理した個体と未処理の個体について、50、52、55、56.5、58℃の熱ストレス処理を行なった。52℃までは用いた環境条件では致死的な高温ではなく、55℃で一部の、56.5℃以上で全ての個体が枯死した。生育温度や45℃処理による針葉の黄化の差について数値化するため、クロロフィル含量測定用のサンプリングを行なった。加えて、野外試験地で6月に観察された猛暑日に前年度と当年度に展開した針葉をサンプリングし、RNAとDNAを抽出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高温順化に関わる遺伝子は順化の温度条件により異なる可能性が示唆されたことから、ゲノムDNAのエピジェネティックな変化の解析対象遺伝子を広げることにしたため、DNA解析の進展にやや遅れが生じているが、全体としては実験計画に沿っておおむね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
高温順化に関わる遺伝子領域のゲノムDNAの変化について解析を終える。高温順化処理及び高温ストレスによる生理的指標の数値変化、遺伝子発現の変動量、ゲノムDNAの変化について統計解析を行い、高温順化に関わる遺伝子ネットワークモデルの構築と制御の要となる遺伝子の解明を行う。
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Causes of Carryover |
当年度実施した解析により、環境条件によって高温順化に関わる遺伝子が異なる可能性があることがわかった。この結果に基づいて対象とする遺伝子を再検討したためゲノムDNA解析が完了していないこと、 次世代シーケンス(RNA-Seq)が予定より安価に実施できたことから、次年度使用額が生じた。次年度において ゲノムDNAのメチル化解析に使用する予定である。
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Research Products
(1 results)