2021 Fiscal Year Research-status Report
代理中間宿主を用いた海産魚寄生フィロメトラ科線虫の感染系の確立
Project/Area Number |
21K05735
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Research Institution | Meguro Parasitological Museum |
Principal Investigator |
小川 和夫 公益財団法人目黒寄生虫館, その他部局等, 名誉館長 (20092174)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
白樫 正 近畿大学, 水産研究所, 准教授 (70565936)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 代理宿主 / フィロメトロイデス / 生活環 |
Outline of Annual Research Achievements |
長崎県産の天然ブリからブリ筋肉線虫Philometroides seriolaeの雌成虫を採集し、そのふ化幼生(第1期幼生)を子宮内から得ることができた。和歌山県白浜町で甲殻類(カイアシ類3種、端脚類2種、十脚類1種)を採集した。これらの甲殻類を小型プラスチック容器内に収容し、P. seriolae雌成虫の子宮内からふ化幼生を取り出して暴露した。幼生を投与直後は実体顕微鏡下で観察して摂食の有無を確認した。その後20℃と25℃で維持して甲殻類体内に幼虫がいるかを解剖、もしくは麻酔をかけて顕微鏡下で確認し、代理宿主としての適性を調べた。その結果、端脚類と十脚類(スジエビの仲間)は幼生を摂食したが、体腔内に虫体は確認できなかった。カイアシ類については、MiraciidaeとTisbiidaeカイアシ類は幼生摂食後、体内に幼虫を確認したが、長期間の維持ができなかった。一方、シオダマリミジンコ(立正大学の岩崎 望先生同定;以下、ミジンコ)は積極的にふ化幼生を摂食し、曝露1時間後には血体腔体内に動く幼虫を確認した。ミジンコ内に最多で3個体の幼虫が確認され、寄生率は最高100%に達した。さらに感染ミジンコの一部を1ヶ月以上生存させることに成功した。ミジンコ内の幼生に脱皮殻を認めたことから、幼生は2期または3期に成長したことも確認された。以上のことから、シオダマリミジンコを代理宿主とする実験系がほぼ確立された。 ブリ筋肉線虫は宿主魚の商品価値を喪失させ、水産業上問題となる。中間宿主が不明であるだけでなく、雄虫も未発見であった。長崎県産の大型天然ブリを2021年4月~9月に計30尾を解剖した。雌成虫をブリ体側筋から取り出す際、寄生部位の洗浄液を検鏡し、雄虫を探索した。その結果、雌成虫140虫を採集したが、同所から2虫の雄成虫を回収することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
代理宿主としてシオダマリミジンコが適していることを確認した。シオダマリミジンコの入手、飼育管理や、殺さずに体内の幼虫を確認する麻酔方法についても、方法の目処が立ち、実験系をほぼ確立することができた。特に、フィロメトラ類のうち、水産上もっとも問題となるブリ筋肉線虫のふ化幼生を代理宿主に感染させることに成功したことは特筆に値する。また、親虫から取り出した幼虫の感染力がどの程度維持されるのか、感染させたミジンコがどの程度生存するのか、など実験感染に必要な基礎データを得た。加えて、P. seriolaeの雄虫発見という生態解明に資する新しい知見も得ることができた。完全虫体は1個体(体長10.7 mm)だけであったが、本種はフィロメトロイデス属の模式種であり、また海産魚寄生の同属線虫からは初報告であった。一部成果については学会での発表も行い、論文として公表準備中である。以上のことから、初年度の成果として極めて順調に研究が進捗していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
確立された実験系を用いて、ブリ筋肉線虫のシオダマリミジンコ内の発育を記載する。現在、少なくとも2期まで発育したことを確認したが、魚への感染期である3期幼生まで発育したか、形態学的に確認できていない。初年度に得たサンプルは全て固定保存してあるため、これらを解析して代理宿主内での成長や変態に要する期間を明らかにする。この調査により、代理宿主内で3期幼生に発育することが確認され、それに要する期間が特定された時点で、ミジンコに対する実験感染を再度実施し、3期幼虫を入手する。実験感染で得た3期幼虫を魚に強制投与して、人為的にブリ筋肉線虫の成虫を得て、生活環を完結させる。 他のフィロメトラ類からもふ化幼生を入手して、シオダマリミジンコに投与する感染実験を実施し、ブリ筋肉線虫以外のフィロメトラ類にも代理宿主として使えるか検証する。
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Causes of Carryover |
コロナウイルス感染症の流行のため、現地調査が計画通り十分にできなかったためで、今年度に昨年度分と合わせた現地調査を行う予定である。
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