2021 Fiscal Year Research-status Report
Elucidating the contribution of terrestrially derived organic matter to organic carbon sequestration in the coastal ocean
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21K05748
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
高巣 裕之 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 助教 (00774803)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 溶存態有機物 / 陸域起源有機物 / 有明海 / 諫早湾 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、沿岸海水中における陸起源溶存態有機物の分解性を、海洋起源溶存態有機物のそれと比較し、評価することを目的としている。まず初年度は、有明海および諫早湾において、陸起源溶存態有機物と海洋起源溶存態有機物の分布状況に関する調査を実施した。有明海奥部海域を、筑後川河口から諫早湾湾口まで横断するライン観測により採取した試料について、溶存態有機物の炭素安定同位体比率を測定したところ、河川水の影響をより強く受けていると考えられる筑後川河口と諫早湾湾口の観測点において、他の観測点よりもやや低い炭素安定同位体比が見られた。しかし、いずれの試料の溶存態有機物の炭素安定同位体比も、海洋起源有機物に近い値であり、現場の溶存態有機物は海洋起源の寄与が総じて大きいことが示唆された。しかしながら、申請者の先行研究において、有明海奥部海域には、筑後川をはじめとする流入河川から、大量の溶存態有機物が流入していることが明らかとなっていることを考慮すると、現場の溶存態有機物の炭素安定同位体比から陸起源有機物のシグナルがほとんど検出されなかったことは、陸起源溶存態有機物が沿岸海水中において分解された結果である可能性も考えられる。このことは、陸起源溶存態有機物が従来考えられているよりも、沿岸海水中において分解を受けやすいという仮説と矛盾しない。 また、有明海に流入する河川水や諫早湾調整池の試料を採取し、主要な溶存態有機物の一種である尿素の濃度を測定した。尿素は主に農業排水などに高濃度に含まれることから、沿岸海水中の尿素濃度は、陸起源溶存態有機物の流入指標として用いられる例がある。河川水や諫早湾調整池の尿素も、他の水域の先行研究同様、比較的高濃度であったため、有明海における陸起源溶存有機物の指標のひとつとして用いられる可能性があることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、有明海の陸起源溶存態有機物と海洋起源溶存態有機物の分布状況に関する情報を得ることができ、当初の仮説とは矛盾しない観測結果が得られた。また、当初の研究計画には無かったものの、陸域起源溶存態有機物の追跡方法として、炭素安定同位体比以外に、尿素も利用できる可能性を見出すことができた。これらの指標を併用することで、より正確な仮説の検証につながるものと考えられる。 一方で、沿岸海水の培養実験を用いた陸域起源溶存態有機物の分解性を評価する実験は実施したものの、培養前後の試料の分析及びデータの解析に関しては完了していない。従って、この点に関しては申請時の計画よりもやや遅れているものの、上述の通り、当初の予定には無かった尿素の分析など、新たな実験項目を追加実施できたことから、総合的にはおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
沿岸海水中における陸起源溶存態有機物の分解性を、海洋起源溶存態有機物のそれと比較し、評価することを目的とし、初年度に実施した培養実験試料の分析およびデータの解析を完了させる。また、有明海および諫早湾における、陸起源溶存態有機物の動態とその分解性について、炭素安定同位体比に限らず、複数の指標を用いて明らかにすることを目標とする。具体的には、上述の尿素の分析を追加することに加え、溶存態有機物の三次元励起蛍光スペクトルの測定も追加することを検討している。溶存態有機物の蛍光特性のうち、蛍光指標 (Fluorescence Index: FI) は、陸域起源有機物と微生物起源有機物を識別する指標として用いられてきた。本手法を新たに組み合わせることで、陸域起源有機物が微生物分解を受けて変質していく過程の追跡も可能になると考えている。
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Causes of Carryover |
初年度は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のための移動制限により、調査および県外の施設にある分析機器の利用が予定通りできなかった。そのため、当初予定していた計画通りの予算の執行ができなかった。今年度は、県外への移動制限が生じた場合でも、県内の漁港から出港することや、学内の共同利用設備を積極的に利用することで、初年度実施できなかった調査および分析を実施できるように計画をしている。
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